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元王子様と元侍女

作者:堂本京
私の幼馴染は元王子様だ。
『元』がつくのは、何も彼が地位を奪われたからとかそういうわけではない。私が言っているのはあくまで前世での話だ。

―――いや、私の頭は正常だ。どこもおかしくはない。大丈夫です、はい。


前世での彼は、地球ではないどこかの世界の、クスタブラという小国の第3王子であり、そこで彼付の侍女と身分違いの恋をした。
侍女としてとはいえ王宮に入れたくらいだから、その女性も一応は貴族の娘だったけれど、没落をぎりぎり免れているに過ぎない男爵家の娘など、王位継承権者たる王子の妻の座には据えられたものではない。だから当の侍女は本来なら王子の側妃になれたら御の字というところだった。だけど、恋に身を焦がす女には、愛する男が他の女を正妃に迎えるというのは耐え難く、そして王子もまた、想い人以外の女性を娶る気はさらさらなかった。

ここから先の物語は、ロミオとジュリエットもびっくりの超展開を遂げる。
王子は侍女を妻に迎えると宣言したけれど、当然周囲に大反対された。そして数々の妨害工作――侍女への嫌がらせから本気で命を狙うようなものまであった――が図らずも2人の恋心を煽り燃え上がらせ、その炎は消すことができないほどの大火事状態に発展していった。
その燃え上がる心のまま、なんと王子は侍女を連れて出奔するという暴挙に出た。地位も身分も自らの責任も、すべてをかなぐり捨てて。
そうまでして思いを遂げようとした2人の物語は、だが結局、追手から逃れる途中で馬車が崖から転落しともに命を落とすという結末を迎える。



息絶える間際、2人はこう誓い合った。
「何度生まれ変わっても、変わらずあなたを愛する。」と。



そして王子は現代日本に成瀬壮志(なるせそうし)として生まれ変わった。それも、王子であった前世の記憶をそっくりそのまま持って、である。

見る人をしてクスタブラの至宝と言わしめた美貌の王子は、生まれ変わった後もやはり容姿に恵まれた。
容姿だけではない。さすがに王族とはいかないまでも、壮志は大企業の御曹司だ。
イケメンの上にお金持ち、いかにも女が放っておかなさそうなオプション付きの壮志は、もちろんとんでもなくモテる。モテまくっている。
けれど彼の目には、どんな美女も映ってはいなかった。

彼はたった1人、愛する侍女の生まれ変わりを探し続けている。
今度こそ、2人で愛を貫き、幸せになるために。



―――バカだなぁ、と思う。
本当に、壮志はバカだ。彼女の生まれ変わりなんて見つかるわけがないのに。

だって、何を隠そうこの私、楠木綾乃(くすのきあやの)こそが、件の侍女の生まれ変わりなのだから。





前世の私は、清楚で可憐で優しくてよく気が利いてエトセトラで、王子に愛されるのも納得だわぁ、と思わず言ってしまいそうな娘だった。ただ、残念なことに結構なおバカさんだった。
だってそうだろう。
側妃で我慢しておけばよかったのだ。そうでないなら、身を引くべきだった。可哀そうだけれども、それが最良の道だったと思う。
少なくとも、恋に恋焦がれて王子にその責務を放棄させるなど言語道断だ。

第3王子であるために王位を継ぐ可能性は低いとはいえ、彼は歴とした王族であり、民の上に立つ人物だ。彼の肩には多大なる権限のみならず、それに伴う責任がかかっていた。
その王子が、自らの負う責任を顧みず出奔するなんて無責任どころの騒ぎじゃない。それに従った侍女もいわば同罪だろう。

だいたい、自分たちが出奔した後に何が起こるかなんてまったく考えていなかったのが私たちのバカさ加減を表している。
王族の出奔などという事態で国が混乱しないわけがない。そして、当時侍女に向けられた蔑視の態度からすれば、侍女の一族がどんな責め苦を与えられたかは想像に難くない。
そういった諸々を、私たちは何一つ考えていなかった。


どう考えても、前世の私たちはバカでしかなかった。



不思議なことに、前世とまったく同じ人格を持って生まれた壮志と違って、私が持っているのは前世の記憶だけだ。人格が見事なまでに違うのだ。私はリアリストで皮肉屋で、だからどうしても前世の私たちの無責任さに呆れてしまうし、自分自身のこととはいえ侍女には全く共感ができない。むしろ軽蔑する。
それでもまあ、もう終わったことだ。何せ前世での話なのだから。

そんなことよりも大事なのは今をどう生きるか、ってこと。
そのために、私は前世での誓いを反故にさせてもらおうと思う。自分の素性――彼の探している元侍女は他ならぬ私であること――を明かさないのも、そのためだ。


せっかく御曹司であるとはいっても一般人であることには変わりない身に生まれ変わったことを喜んでいる壮志には申し訳ないと思うけれども、今生で彼と結ばれるつもりはない。一切ない。


何故なら、せいぜい中の上という程度の容姿しか持ち合わせていない私は壮志とは釣り合わない。
しかも、身分の差はなくなったけれども、彼の両親はごく普通のサラリーマンの娘である私を見下していることを隠そうともしない。壮志の友達としてすら不満だと言わんばかりだ。恋人、ましてや結婚相手なんて考えられないと思っているに違いない。
その状態で壮志と結ばれたら?考えるだけで恐ろしい。
大反対は避けられないだろうし、反対を押し切ってもどんな嫌がらせをされるかわかったもんじゃない。そんなの絶対にごめんだ。

何より、最も肝心なのは私が壮志を愛してないってことだ。
必要なら何度でも言おう。私は彼を愛していない。前世の頃とは違って。
だから前世のことは壮志に告げないまま黙っている。この秘密は墓場まで持っていくつもりだ。



そんなこととは知らない壮志は、今日も見つからない元侍女を思ってため息をつく。



悪いわね、王子様。だけど私、今生では幸せになりたいのよ。
身の丈に合った人を見つけて、ね。

壮志は幼少期には周囲の人に前世の話をしていたものの、成長とともに綾乃以外に話さないようになってます。変な目で見られてしまうので。
壮志の話を聞いたことで、同じく前世の記憶を持つ綾乃は、彼が元王子だと気づきました。
綾乃が壮志の話を馬鹿馬鹿しいと切り捨てずに聞いてあげているのは、正体を打ち明けず知らんぷりしている罪悪感から。壮志は自分に奇異の目を向けない綾乃を信頼していて、悩み相談をするので、綾乃はますます逃げられません。

以上、本文に上手く挿しこめなかった基本設定です。

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