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恋人は、あまえた(元)優等生  作者: 七賀ごふん
幼馴染のお迎え

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9/27

#9




そこまで考えてるんだ。やっぱり俺と違って偉い。


「川音は? 進学するんだろ? 行きたい大学は決まってるのか」

「うーん。考え中」

「成績良いから、進学しないのは勿体ないぞ」


やってきた電車に乗り、貴島はシートに座った。隣の座面をぽんぽんと叩き、俺にも座るよう促す。

「川音」

「あ、うん」

隣に腰掛け、視線は前に向ける。鞄を靴の上に置き、ふぅと息をついた。

「もう二年だけど、将来のこととか考えられない。……いや、考えたくないんだろうな」

「はは。皆そうだよ」

貴島はそう笑うけど、俺は輪をかけてだと思う。

まだまだ、彼の隣にいるこの瞬間を噛み締めていたい。

ずっとこうしていられたらいいのに。


「でも、俺も特にそうかも。卒業した後のことなんて考えたくないよな。やっとこうして、お前といられるようになったのに」

「……っ!」


それは……その言葉は、心の中の深いところに浸透していった。


貴島は俺が欲しい言葉を的確に拾い過ぎだ。

彼がどんどん遠い存在になっていく気がして、怖くて悲しかったけど。また、飛び上がりたいぐらいの喜びに襲われてる。


「貴島。このあと用事ある?」

「いや」

「じゃ、ちょっと付き合って!」


学校から離れてようやく、優等生の仮面を外せる。

誰の目も気にせず、懐かしいあの頃に戻れる。

貴島と一秒でも長くいたいから、俺の家の最寄り駅に彼を誘っていた。



「ただいまー」

「おかえり、深白。あら、友達?」

「うん。ほら、島根にいた時の幼馴染。転校してきたんだよ」

「え! じゃあ、月仁くん!? 久しぶりねぇ〜! 大きくなって!」

「あ、本当にお久しぶりです」


俺の家。……の隣にある店の引き戸を開けると、母が目を輝かせてやってきた。厨房の奥では父が何事かと覗いている。


「急に転校してきたんじゃ大変だったでしょう。困ったことがあったら深白に言ってね」

「ありがとうございます。本当にいつも助けてもらってます」


貴島はまた、そつなくお辞儀をした。俺とタイプが違う……という俺は家ではダラダラしてるから、貴島が相当礼儀正しく見えたんだろう。父も母も「は〜っ」と感嘆の声を上げていた。


両親は、俺が物心ついた時から割烹料理屋をしている。元々は島根の小さな町で営んでいたけど、六年前一大決心して都心に移転したのだ。

それもあり俺は貴島と離れ離れになった。幼馴染の貴島のことは両親もよく知っていたから、時々申し訳ないことをしたと零すことがあった。


だから、貴島がこっちに来ると伝えた時は両親も喜んでいた。


「川音君、空港まで俺に会いに来てくれて……すごく嬉しかったです」

「あら、そんなの当たり前よ。深白ったら、ここ最近ずっと月仁くんのこと話してたのよ。また一緒に学校行ける! って大喜びしちゃって」

「母さん、そこまで! 父さんお願い、ちょっと厨房借りていい?」

「あぁ」


これ以上母に喋らせてはいけない。羞恥心を押し殺し、貴島の手を引いて奥へ向かった。

開店は夜からなので、今は仕込みの時間だ。貴島には奥のカウンター席に座ってもらい、俺はブレザーを脱いで手を洗った。


「貴島、何食いたい?」


厨房から声を掛ける。店の手伝いは盛り付けぐらいしかしないけど、家では炊事当番もするからある程度のものは作れる。

せっかくだし貴島になにか振る舞おうと思った。でも彼はいつも以上に無表情で、静かだ。


「な……何でも」


いい、と言って、頬を赤らめている。

どうしたんだ……?

急に様子がおかしくなったから、ちょっと考えた。そこで異様に姿勢が良いことに気付き、緊張してるのだと分かった。


お客さんもいないし、父と母は離れたところで仕事してるし、気にしなくていいのに。

珍しく年相応に固くなってる貴島に苦笑し、調理器具を取り出した。

「深白。鯛つかっていいぞ」

「やったぁ! サンキュー」

「その代わり、月仁くんに美味いもん食べさせてやれよ」

若干プレッシャーだけど、せっかく良い食材を使わせてもらえるのだから頑張ろう。


貴島は緊張してるみたいだけど、彼に見られてる俺も同じ気持ちだ。

( 集中集中…… )

むず痒いのを堪え、簡単なご飯を貴島に渡した。自分の分も用意し、彼の隣に座る。

「赤天じゃん。久しぶりに食ったけど、すごい美味い」

「あはは、良かった。俺も久しぶり。貴島が来るって知って、食べたくなって取り寄せたんだよな」

ほうじ茶を入れて彼に手渡す。

貴島はなおも静かだったけど、味わうことに集中している様子だった。


「鯛めしも美味い……」


鯛めしと言えば愛媛って感じだけど、俺達の地元も鯛めしは愛されてる。薬味や大根おろし、卵の白身も乗せて、豪華な一品だ。それをかき込むと、どんなに寒い日も一瞬で温まる。


貴島は最後の一口を口に入れ、微笑んだ。


「お前の作った飯が食えるなんて。……夢みたいだ」




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