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恋人は、あまえた(元)優等生  作者: 七賀ごふん
幼馴染のお迎え

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6/21

#6




あ、やばい。俺何言ってんだ。


「……川音?」


ハッとして振り返る。案の定、貴島は心配そうにこちらを見ていた。


「ごめん! 帰ろう!」


彼から顔を背けて歩き出そうとした。が、後ろから腕を掴まれ、バランスを崩してしまう。


「わわっ!」


危うく転びかけたが、貴島の胸にすっぽり抱き込まれた。

「大丈夫か?」

「おぉ……」

まだ心臓がバクバク鳴ってる。早く先に行こうと思うのに、貴島の手はまだ前に回ってる。踵に力を入れて進もうとしたものの、やんわり阻まれた。

これ、何が何でも離す気ないな。


「貴島。どした?」


一体どうしたというのか。

恐る恐る後ろを見ると、彼は消え入りそうな声で零した。


「俺も本当は、これぐらいの距離でいたい」

「え」


体がフリーズした。

うなじに彼の吐息が当たりそうだ。このまま振り返ったらいけない部分に触れる気がして、顔を前に戻した。

貴島は静かに、しかし掠れた声を紡ぐ。


「俺だけが、昔の可愛いお前を知ってるって言いふらしたい」

「やめろ」


それは自殺案件だ。

一気に血の気が引くけど、先程とは打って変わって明るい笑い声が聞こえた。


「お前と過ごした時間は、俺にとって宝物なんだよ。確かに誰かに見せたい気もするけど、最終的には俺とお前だけ知ってればいいか。って気になる。……まだ俺達だけのものにしておきたい」

「貴島……」


彼がそんな風に考えていたことに、正直驚いていた。

俺と彼は考えが真逆だ。俺は大事だから人に見せたくて。でも彼は、大事だからこそ秘密の宝箱に仕舞っておきたいと思ってる。


その対比に戸惑ったけど、彼が昔を大事に思ってくれていたことは変わらない。


昨日と同じ。彼も、同じ気持ちになってくれてる。

それが分かったら嬉しくて、むしろさっきより彼に背を預けた。


「でも、寂しい思いさせてすまない」

「ううん。……今は……はは、嬉しい」


彼の肩に後頭部を乗せ、思わず笑った。


「てか何で俺、こんなにモヤモヤしてたんだろ。変なの」

「分からないで言ってたのか」


貴島は驚き半分、呆れ半分で俺のつむじを押した。


「俺が誰かにとられそうで、不安だったんじゃない?」


確かに。モヤモヤは、言い換えれば焦りでもある。貴島が知らないところに行ってしまいそうな、漠然とした不安に押し潰されそうだった。


でもそれって。


「俺、貴島の周りに焼きもちを焼いてた。ってこと?」

「……そうじゃないの?」

「ええ……恥ず……」


尋常じゃなく恥ずかしいよ、それ。

振り返ることができずに俯いてると、今度は頬を指でつつかれた。


「良いじゃんか。俺も逆だったら、普通に妬くぞ」

「そうかなぁ。お前クールじゃん」

「お前に関しては別」


貴島は俺の背中を軽く押し、今度こそ離れた。


「人がくる」

「あ。うん」


距離をとった直後に、他の生徒が廊下の先から歩いてきた。

ふざけて触れ合うぐらいのことは普通だけど、俺はそういうキャラでは通ってない。超がつく真面目人間だ。加えて転校初日の貴島とひっついてたら何事かと思われる。


ほんとはもっと近くにいたいのに……ふぅ。


しんど。


疲れが顔に出ていたのか、貴島は可笑しそうに笑った。


「帰るか」

「あぁ」


貴島は以外とお茶目で、でも強かで。そんで、どうしようもなく優しい。


彼の好きなところを……どんどん思い出していく。


踵が浮きそうになる。しっかり歩いてるのに、俺の心と体はまだふわふわしていた。




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