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恋人は、あまえた(元)優等生  作者: 七賀ごふん
幼馴染の甘え方

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#2



今思うと、普通に病んでたな。

いや、今もか。


父の海外赴任は驚いたけど、東京に行くことが決まった夜は眠れなかった。


深白に会える。


そのたったひとつの事実が、俺の全てを支配していた。


記憶の中で止まった、世界で一番大切な存在。

彼に会えることが最大の喜びで、……ほんのちょっと不安で。

けど居ても立ってもいられず、彼に連絡した。彼は即座に空港まで迎えに行く、と返してくれた。

俺のことをまだ覚えてくれていた。それだけでも目眩がするほど嬉しいのに、会いに来てくれる。

夢でも見てるんだろうか。


「もしもし」

『あっ。もしもし。……今どこ?』


空港の到着ロビーで、久しぶりに聞いた声。電話越しだからか、尚さら知らない人と話してるように感じる。

でも、間違いなく深白だ。


同じように耳にスマホを当てて佇んでいる姿を見たとき、息するのを忘れた。

ああ。

びっくりするぐらい大人になったけど……間違いなく、深白だ。


『ひ、久しぶり。全然分からなかった』


気まずそうに、少し照れくさそうに話す。

見るからにガチガチだったけど、そのぶんこっちは冷静になれた。


緊張はしてるけど、俺と会ったことを喜んでくれてる。


俺もそう。昔のテンションなら、多分会った瞬間に思いきり抱き締めてた。

でも大人になって、無駄に狡猾になって、感情を出せずにいる。

深白の素直さが羨ましい。そして、愛おしい。

でも苗字で呼ばれた時はちょっとムカッとした。というのは内緒だ。



深白に触れていると、六年という月日は気が遠くなるほど長くて、あっという間に感じる。

成長した彼は、ぽっかり空いた俺の記憶を補完してしまう。


「月仁〜。そろそろ帰ろっ!」


高校三年生になった。

受験間近、卒業も控えてる。

でもそれ以上に、二人で始める新生活に心を躍らせている。

鞄を持ち、同じ歩幅で廊下を歩く。

今ではすっかり甘えたな、元優等生の恋人の隣で。


「な、今日の弁当どうだった? 初めて味噌カツに挑戦したんだけど」

「あぁ、めっちゃ美味かった。ありがと」

「ほんと? 月仁の感想って美味いばっかなんだもん」

「ははっ、ごめんごめん。ボキャブラリーないからな……」


放課後の、誰もいない昇降口で向かい合う。

この何でもない、温かい時間と空間が宝物。

「美味しかったから、また作ってほしいな。お願い」

微笑むと、深白は露骨に顔を赤くした。

この素直さ……もといピュアさが羨ましく、また愛おしい。

「しょうがないな〜。来週の弁当にも入れるよ。……てか」

「ん?」

「卒業しても。毎日弁当は作るから……安心して」

深白は俯きがちに、か細い声で零した。

上から見た頬と耳はほんのり赤く染まっていて、触れたら熱そうだった。


彼の熱にとかされるなら、それは願ってもないことだ。


「深白」

「ん? わわっ!」


人目も場所も構わず、思いっきり彼を抱き締めた。

軽く窒息させてしまうんじゃないかというほど……うっかりすり抜けてしまわぬように。

できればそのまま押し倒して、唇まで奪いたかったけど、深呼吸して彼から離れる。


「続きはしばらく先。新居でな」

「は……はい」


相変わらず顔を真っ赤にした深白の頬を撫で、手を差し出す。


「深白。おいで」

「……っ」


以前の彼だったら、怒りと羞恥心で顔を赤くしただろう。


今は何も言わず、俺の腕の中に飛び込んでくれる。

この愛しい重さをいつまでも感じていたい。


我慢してきたぶん限界まで抱き締めて、撫で回して、甘やかしたい。

未来が待ち遠しい。待ちきれず、こっちから走ってしまいそうだ。


俺の為に強くなろうとしてくれた、可愛い可愛い恋人。

彼と幸せになる為に、俺は今日も青すぎる空を見上げる。




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