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恋人は、あまえた(元)優等生  作者: 七賀ごふん
幼馴染の約束

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20/21

#5




「何があったか言いなって。俺が力になるけど?」


彼は地面に膝をつき、息が当たりそうなほど顔を近付けてきた。

匂いのことも気になるけど、それ以上にこの空気はまずい、と思った。腰に手を当てられ、顎を掴まれている。


まさか、同性愛者か。

力が抜けて立てないものの、後ろに身を引いた。


「ほ、本当に何でもないって」

「強がんなって。そんな顔して言われても、むしろ逆効果だし」


彼の手が、さらに下へと伸びる。

こんな外で何かするわけない。そう思ってはいるけど、────どうしよう。


「いやだ……っ」


助けて。……月仁。


瞼を伏せ、心の中で叫んだとき……彼の手が離れた。


「……何してんだ?」

「月仁……っ!」


彼の腕を押さえ、俺から引き離したのは月仁だった。いつもと同じ無表情だけど、息を切らしている。走って来てくれたことはすぐに分かった。


「いってえな! いきなり何すんだよ、ぶっ飛ばすぞ!」

「かまわないけど、そしたら先生に来てもらうよ。殴ったことより、ヤニ臭い方を問い詰められると思うけど」


月仁も気付いたようだ。バツが悪くなったのか、慌てて手を振り払い、少年は校舎の中へ去って行った。


怖かったけど解放されて、また力が抜けてしまった。

両手を地面について俯くと、目の前に月仁の靴が見えた。


「深白」

「月仁。さっきはマジでごめ……わっ!?」


謝ろうとしたものの、突然視界が急上昇してパニックになる。

有り得ないことに、月仁にお姫様だっこされていた。


「ちょっとちょっと! 何だよ急に!」

「暴れんなって。大人しくしてろ」


月仁は静かに言うと、そのまま倉庫室に入っていった。一番奥まで向かい、棚の影に隠れる。

ようやく下ろしてもらえたけど、大きな声を出してはいけない気がした。壁に背を預けながら、目の前に屈む月仁を見つめる。


「大丈夫か? さっきの奴に何された」

「あ……ううん、大丈夫。何かされる前に月仁が来てくれたから」


少しはだけた襟元を押さえると、月仁は明らかに苦しそうな表情を浮かべた。


「この学校は危険だらけだな」

「あはは……たまたまだよ。何も心配ないって」

「泣いてるのにか?」


目元に月仁の指が触れる。

教室にいた時はともかく、今はもう大丈夫だと思ったのに。……月仁の指と膝には、俺の頬を伝う雫が零れていた。


嘘。そんな怖かったのか。っていうか……。

月仁が助けに来てくれたことが、本当に嬉しくて。だからこれは、嬉し泣きだ。


「深白。もう隠すな。自分の本当の気持ち」

「本当の……?」

「怖いなら怖いって言え。辛いことも悲しいことも、耐える必要なんてない。俺がいるんだから……! 俺だってずっと、お前を守りたいと思ってたんだから……!!」


肩を掴まれ、上向きになる。

恐る恐る見上げた月仁の瞳は、わずかにぬれて光っていた。


「お前の意地っ張りなところ、どう撲滅しようか考えてたけど。やっぱり力ずくが一番だな」

「撲……? 月仁、ちょっと怖いぞ」

「なら甘えろよ。俺はずっとお前に寄りかかってほしかった。今までは必死に抑えてただけだ」


月仁は額を押さえ、赤く腫れた目元に影を落とした。


「お前にはお前のプライドがあるから、それを傷つけたくなかったし。でもこんな泣き顔を誰かに見せるぐらいなら、もっと早くに壊せば良かった。って後悔してる」

「それは横暴だろ! 俺は弱くないし! ……弱くなかったんだ! 月仁が来るまでは!」


それまで抑え込んでた感情が爆発して、自分がいる場所も考えずに叫んだ。


「皆から頼られてた。ひとりでも問題ない人間になったと思ってたんだ。……でも今は不安で仕方ないんだよ。好きだから……月仁のことが大好きだから、怖い。男同士だし、昔みたいな距離感でいるわけにいかないし、ふえっ……俺のせいでまた迷惑かけたらって思うと……」

「だから迷惑じゃないっての」


支離滅裂に泣き喚いたものの、とてもクールに制された。月仁は溢れて止まらない俺の涙をすくい、優しく微笑む。


「俺はお前の全てを知ってたい。正直、お前以外のことなんてどうでもいいんだ。なのに迷惑とか思うわけないだろ」


互いの額がこつんと当たる。しゃくり上げる俺の頭を、月仁は撫で続けた。


「俺はお前を忘れた日なんて一日もない。離れてからずっと、お前を甘やかす日を夢見てたんだ。……叶えさせてよ」


月仁は古い記憶を辿る。


あの優しくてか弱い少年が、知らない地でひとりでやってけるのか。

烏滸がましいが、本気で心配する夜を送った。成長した姿なんてまるで想像できなかった。

本心は、想像したくなかったのかもしれない。いつまでも、自分に頼ってくる彼のままでいてほしかった。


深白にはそんな勝手な願望を抱き、嫌がらせをしてくる同級生には失望した。時間が止まってるのは、自分の方。


だからもう変わらないといけない。

彼が自分の為に変わろうとしてくれたように……今の関係から進まないといけないんだ。




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