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恋人は、あまえた(元)優等生  作者: 七賀ごふん
幼馴染のお迎え

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2/27

#2




思わず苗字で呼んでしまったけど……本当に会いたかったし、会えてすっっごく嬉しい。


なのに面影がなさ過ぎて、完全に知らない人のオーラが流れている。


いや、落ち着け俺。最後に会ったのは小学生だったんだ。声変わりもするし、別人になってて当然だろ。


凍てついた空気を打破するべく、彼の手を引いた。


「腹減ってない? 何か食いに行こう!」


周りにも再会を喜んでる人達がいたが、静かに見つめ合ってる自分達とは対照的。

居づらくてすぐさま場所を移ることを提案してしまったが、貴島は特に気にしてなさそうだった。


( 落ち着いてるなぁ…… )


ただ歩いてるだけで見惚れそうだけど、変な感じだ。


昔の彼はもっとお喋りで、活気的な少年だった。

ところが今の彼は寡黙で、恐ろしくクール。六年の月日が彼を変えてしまったらしい。


「ラーメン好き?」


尋ねるとコクッと頷いた為、彼とレストラン街のラーメン屋に入った。カウンター席に案内され、お通しのネギのせメンマを食べる。


「学校はいつから来るの?」

「来週の月曜から」

「じゃ、一緒に行こうぜ」


微笑みかけると、彼は一瞬驚いた顔を見せた。

いやいや、何でそこで驚くんだ。


「何、駄目?」

「違う。やっぱり雰囲気違うと思って」

「そう?」

「あぁ。真っ先に迎えに来たのも驚いた」


注文したチャーシュー麺が目の前に置かれる。手探り状態ではあるが、互いに言葉を発するタイミングを慎重に取り出していた。

割り箸を渡すと、貴島はようやく口端を上げた。


「ありがとな」

「……おぉ」


何か、改まって言われると照れる。

顔が熱くなった気がして、慌てて視線を前に戻した。


貴島とは、小学校五年生まで一緒だった。

家が隣だった為、物心ついた時から一番近くにいた。同い年なのにしっかりして、頼もしい彼に随分助けてもらっていたと思う。


でも六年前、俺は親がやってる割烹屋の移転の為東京へ引っ越すことになった。貴島の家と距離があるから、ずっと会えずにいたけど。


「お前のお父さんも大変だな。急にシンガポールに単身赴任とか」

「あぁ。でも二年だけだし、兄貴の家に居させてもらえることになったから。むしろついてた」


彼は父子家庭だ。そのお父さんが海外赴任することになり、急遽お兄さんが住んでる東京へやって来た。

半年前、久しぶりに彼から連絡を受け取った時、それはもう嬉しくて舞い上がった。


ずっと一緒にいたかったのに、離れなくてはいけなくなった親友。彼が自分が通う高校に転入するというのだから。


住所を移したり大変だったはずだけど、転入試験も問題なかったようだ。学校に生徒の枠が空いてることも幸いで、無事来週から一緒に通うことができる。


再会したときはやっばい緊張してたけど、ようやく喜びが込み上がってきた。


「前の学校はどうだった? 勉強難しかった? 部活とか、委員会は入ってた?」

「質問攻めだな」


貴島が苦笑したから、口を手で覆った。

訊きたいことがたくさんある。でも大移動で疲れてるだろうし、今日は彼を労らないと。


「悪い、それはまた今度! とりあえず、再会に乾杯!」

「はいはい。乾杯」


瓶のコーラをカチンと鳴らし、一気に呷る。冷たい炭酸は涙が出るほど辛かったが、頭の中がすっきりした。

( 貴島…… )

親友。……以上、の青年。強くなりたいと思ったのも、全部彼がいたから。


昔はいつも心配をかけていた。だから今度は俺が彼を支えてみせる。


「貴島、困ったことがあったら何でも言ってよ。学校でもそれ以外でも」

「頼もしいな。……それじゃ、早速ひとついいか」

「何!?」


役に立てると思ったら嬉しくて、箸を置いて横を向いた。すると貴島は不敵な笑みを浮かべ、俺の額を指でつついた。


「学校の中。案内して」

「え」


あまりに些細なお願いをされ、拍子抜けしてしまった。

「そんなん頼まれなくてもする」

「そっか。サンキュー」

でもそんな小さなことすら確認しないといけないほど……俺達の距離は遠のいてしまったのかもしれない。

実際大人びた彼と相対するのは、妙に緊張する。他人行儀になりそうだけど、これは本意じゃない。


コーラを飲み、申し訳なさに俯く。


「貴島は……引くほどカッコよくなったな」

「何だソレ」


貴島は、ここで初めて可笑しそうに肩を揺らした。ひとしきり笑った後、意味ありげな視線を寄越す。


「俺からすれば、お前の方がきらきらしてて焦るよ。驚いたけど、中身は変わってなくて安心した」

「いや、中身の方が変わったよ。自分で言うのも何だけど、昔より百倍しっかりしてる」

「ほー……別に変わらなくても良いのに。川音はそのままで」


彼からすれば、何気ないひと言だったのかもしれない。

しかしそれは心の柔い部分に突き刺さった。


死ぬ気で勉強して、上がり症を克服して、揺るがない優等生像を築いた。それはかつての情けない自分を知る、貴島に胸を張って会う為だったから。




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