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恋人は、あまえた(元)優等生  作者: 七賀ごふん
幼馴染の約束

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16/27

#1



月仁の両の頬を手ではさみ、上向かせる。

彼はきょとんとしていたけど、すぐに吹き出した。


「サンキュー。……お前って時々男らしいっていうか、……熱いよな」

「え? ……あ、いや……」


指摘されて、慌てて手を引っ込める。

確かに、今の宣言はやばかったかも。


気持ち悪がられたらどうしよう……。

ビクビクしながら座り直すと、月仁は自身の目元を擦り、俺の口にクッキーを差し出した。


「そういうところも大好きだ」

「……っ!!」


見惚れそうな、優しい笑顔。

思わず口を開いたら、クッキーを詰め込まれてしまった。


ひとまず食べたけど、尋常じゃなく喉が渇く。


これ、俺がおかしい……わけじゃない、よな?


俺も大概だけど、月仁の台詞も中々際どい気がする。

実際どんなに好きな幼馴染でも、男に対して「好き」とか言わないような。


でも彼はどこまでも純粋で良い奴だから、彼にとっては普通なのかもしれないし。はああ。


幼馴染という繋がりは心強いけど、時々もどかしくもなる。

俺が何を言っても、彼が何を言っても、深い意味はないとされてしまいそうで。


「……俺も、月仁の強いところが好きだよ」

「そう?」

「うん。あ、でも無理はしないでほしい。……俺の前では弱いところも見せてほしい……みたいな」


しどろもどろになってしまったが、言いたいことは伝わったみたいだ。月仁は頷き、俺に笑いかけた。


「わかった。じゃあそれも、互いに約束しよう。絶対無理はしない、って」

「……うん」


小指に触れる。くすぐったて、でも胸の中がじんわりする。


俺も月仁も、クラスメイトの前では見せない姿がある。それがまさに“今”なんだ。


いつか、誰かの前でも素の自分に戻れるだろうか。


気を抜いたら抱き締めそうなほど大切な彼を一瞥し、想像した。すると突然扉が開き、ひとりの青年が現れた。


「ただいま。……って、あれ。友達?」

「兄貴。早いじゃん。おかえり」

「兄……っ!?」


心の準備ができてないせいで、声が裏返ってしまった。


月仁のお兄さん……!

久しぶり過ぎて動揺したけど、すぐに立ち上がってお辞儀する。

「川音です。お邪魔してすみません!」

「いえいえ、どうぞごゆっくり。ん……川音さん?」

「兄貴、島根にいた時の俺の幼馴染。昔家の隣にあった小料理屋の子だよ」

覚えてない? と月仁が言うと、彼は驚いた顔で手を叩いた。


「あぁ! 梢さんところの……じゃあ深白君か。久しぶり! 大きくなったね」

「お、お久しぶりです。覚えてくださってたんですか?」

「当然。昔はよくご飯食べに行ってたし、月仁と仲良くしてくれてたからね」


月仁の兄、時晴さんはスーツのジャケットを脱ぎ、懐かしそうに笑った。

梢は島根で開いていた時のお店の名前だ。そこまで覚えてくれていたことに嬉しくなる。


「父親の赴任で月仁は急に俺の所に来ることになったんだけど……深白君に会えて良かったな」


時晴さんがにこやかに話し掛けると、月仁は黙って頷いた。

「それより、今日の夜飯どうする」

「ん? あぁ、どうしよっか。俺も何も買ってないし……深白君がいるからデリバリーでも頼むか」

「え!? いやいや、俺は帰るから大丈夫ですよ!」

兄弟水入らずのところに居座ったら申し訳ない。

鞄を取って玄関へ向かおうとしたが、月仁に阻まれてしまった。腕を引かれ、さらに奥のソファに座らされてしまう。


「深白君、ピザ好き?」

「あ……好きですけど、ほんに大丈」

「おっけ! じゃあ頼んじゃうね〜」


時晴さんはぱっぱとネットで注文し、俺はその間月仁に口を塞がれていた。何が何でも帰さないという気迫を感じて若干怖かった。


一時間後。


「お待たせ〜。さっ食べよ!」

「わぁ……美味しそう……」


無事に届いたピザをテーブルに広げ、時晴さんは俺を椅子に誘導した。

「たまにこういうの食べたくなるんだよな~。深白君もほら、サラダもあるから食べて」

「あの、本当に良いんですか?」

「遠慮しないで! それに聞いたけど、前に月仁にご飯作ってくれたんだって? ありがとね」

時晴さんはお茶を入れ、手渡してくれた。

「とんでもない。こちらこそありがとうございます……!」

月仁はお兄さんと普段から色々話してるみたいだ。それが分かって安心した。


「俺は料理上手くないから、本当に適当なものですよ。なので良かったら、今度はお店に食べに来てください。親も喜びます」

「え、ほんと? 絶対行くよ!」


時晴さんは月仁と歳が離れていて、今は二十五歳。兄というより保護者のような安心感があった。

久しぶりに会えただけで嬉しかったのに、夜ご飯までご馳走になった。美味しいのはもちろん、とても心地良い時間と空間だった。


「でも深白君、本当に大人になったね〜。まぁ月仁もだけど……何かそれだけ自分が歳とったんだなって思って悲しいよ」

「兄貴だってまだ若いだろ」

「若いったって十代の輝きは取り戻せないんだよ。だから二人とも、後悔しないように言いたいことややりたいことはちゃんとやるんだぞ」




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