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恋人は、あまえた(元)優等生  作者: 七賀ごふん
幼馴染の懸念

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#5




月仁は深い黒の瞳をこちらに向け、息をついた。


「この世の終わりってこういうことを言うんだな、って思った」

「あははっ。俺もそう」


誰にも言えない苦しみを押さえ込んで、より暗い場所に潜ろうとしていた。

今だから笑って言えるけど、当時は大泣きしたっけ。


「月仁と離れたくない、って……毎晩ひとりで泣いてた」


十一歳の頃だ。枕に顔をうずめて、泣き疲れて眠るという毎日を送っていた。今思うとどんだけ月仁に依存してんだ、って恥ずかしくなるけど。


「……月仁?」

「……そういうこと、さらっと言うなよ……」

「えー。だって恥ずいし」


月仁は何故か額を押さえてため息をついた。

恥ずかしい告白なんだから俺が頭を抱えるところだと思うけど。反応が逆なのか可笑しい。


「とにかく! 今こうして傍にいられるのが嬉しいよなっ?」

「……お前ってほんとに素直だな」


月仁は心底不思議そうに座り直し、背もたれに手をかけた。


「モテる見た目で、中身まで完璧。でも良いことばっかじゃなかっただろ」

「それはそうだけど……俺は目標があるから耐えられたよ」

「目標って?」

「だから、月仁に成長した姿を見せたい! って目標」


高らかに言うと、彼はまたため息をついた。

反応薄すぎて虚しくなるけど、彼の頬は妙に赤らんでいた。


「月仁は俺の目標を軽んじてるな」

「別に軽んじてるわけじゃない。俺といるのに何でそこまでエリートでいようとするのか理解できないだけ」


だからそれは……と返しそうになって、珈琲を飲むことで押し込んだ。堂々巡りだけど、羨望の的の月仁の傍にいるには、それ相応のスペックが必要なんだ。


小さい頃、月仁はクラスの中心にいた。皆が月仁と遊びたがっていたけど、当の月仁はクラスで一番大人しい俺といたから、それなりにやっかみもあった。


「とにかく、昔の弱い俺だと色々問題があるの」

「……そっか。でも、そうだな。気付いてやれなくてごめん」


月仁が急に申し訳なさそうに頭を下げたから、驚いて椅子を引いた。


「いやっお前は何も悪くないから!!」

「お前が辛い想いしてた、ってだけで駄目だ。子どもの頃は特に、俺はお前を守れてるって過信して、勝手に誇らしく思ってたし」


また、指先が痛んだ。今度は触れてないのに、テーブルの上に乗せてるのが辛いほど。

強く握り締めたけど、月仁の辛そうな顔を見たら頭の中が真っ白になってしまった。


「俺の方こそ、ごめん……全部俺が弱いからだ」

「それは違うって。攻撃してくる奴が悪いに決まってんだろ」


月仁は諭すように告げた後、スマホを少しだけ触り、またテーブルに置いた。


「深白が転校した後は、つまんない毎日だったよ」

「え」

「当たり前だよな。よく考えたら、お前以外に友達いなかったし」

「いやいや。何言ってんだよ、全員と仲良かったじゃん」


冷静に返すも、月仁は「表面上はな」と首を横に振った。


「中学に上がってからはずっと嫌がらせの標的にされたよ」

「は!? 何で!」

「まぁ、普通に目障りだったんだろ。今と同じで、妙に女子から話しかけられるからさ……」


それは……。

月仁がイケメンだからだよな。絶対。


自覚なさそうだけど、どちらにしろ月仁は何も悪くない。


「最低過ぎるだろ、そいつら……!」


息が苦しくなるほどの怒りが込み上がってくる。

いくら子どもだからって許せないと思った。逆恨みすることはあっても、実際に攻撃するのはわけが違う。

そして、それを知らずのうのうと過ごしてた自分も歯痒かった。


「とりあえず目立たないようにしとこうと思って、眼鏡かけてガリ勉のふりしてた。成績は上がったから結果オーライだよ」


お前と同じ学校に入れたし、と月仁は窓の外を眺める。


「何で月仁がそんな我慢しなきゃいけないんだよ……」

「はは、大丈夫だよ。あんなの大したことない。お前と離れた時の痛みに比べたらな」


マグを掴もうとした手が空振りした。


また心拍数がおかしなことになってる。馬鹿みたいに口を開けたまま、正面の彼を見返した。


「色々あって性格ねじ曲がったけど。お前とまた会えたから、もう良いんだ」


月仁は前に傾き、テーブルの上で眠るような体勢になった。


「……っ」


俺はと言うと、嬉しいやら恥ずかしいやらでフリーズしていた。


だって意味分からない。

同級生の嫌がらせより俺と離れる方が辛かったとか。

こんないじらしい存在、一生捜しても見つからないと思う。


可愛すぎるだろ……。


気付いたら手を伸ばし、彼のつむじをわしゃわしゃ撫でていた。


一番大事な親友が、自分のことを想ってくれている。

その幸せに戸惑いながら、改めて決意した。


「月仁」


俺は絶対、彼に辛い想いはさせない。


「俺は月仁とずっと一緒にいる! だから安心して。もう大丈夫だから……!!」




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