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恋人は、あまえた(元)優等生  作者: 七賀ごふん
幼馴染の懸念

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#3



月仁は静かに微笑んだ。その頬はわずかに紅潮している。

後ろの藍色の空と対照的で、何だか見惚れてしまった。


「そ……それなら良かった。俺もバイトしてるってことにすれば、堂々と一緒に帰れるし!」

「な。明日は学校に許可証もらいに行く」


月仁はぐっと腕を伸ばすと、俺の襟元にそっと触れた。


「月仁?」

「そういえば、今日はネクタイしてないんだな」


彼は首を傾げ、不思議そうに呟く。

風がひんやりすると思ったが、彼に言われるまですっかり忘れていた。


「そうそう……何故か都波に外されたんだよな」

「都波って、同じクラスの?」

「うん。優等生なんかやめろってさ。……あ、悪い意味はないよ。俺もよく分かんなくなってたところだから」


大きな河にかかった橋を渡る。見晴らしの良い街の景色を眺めながら、空を仰いだ。


「俺が優等生じゃなくても、月仁と一緒にいられるなら。……必死に取り繕うのはもうやめようかな。って思って」


かっこいい月仁の迷惑にならないように、ってずっと思ってた。

でも現実は、みんな月仁の隣にいる人のことなんて気にしてない。それにようやく気付いた。


自分のアホらしさに呆れたけど、同時に脱力した。俺はもう、弱い自分を殺さなくていいのだと。


頬を搔いて俯くと、月仁は優しい顔で笑った。


「無理してることは、最初から分かってたよ」


でもお前意外と頑固だからな、と俺の顔を覗き込む。


「頑張ってるのも分かったし、それを俺が否定すんのも変かと思って、黙ってた。……でもやっぱり、俺はお前に笑っててほしい」

「月仁……」

「泣いてる時のお前も可愛かったけど、笑ってる顔が一番可愛いし」

「ちょっ……いつの話してるんだよ!」


思わず言い返すと、月仁は吹き出し、可笑しそうに肩を揺らした。


全力で抗議したいのに。彼が無邪気に笑ってる姿が久しぶりで、目を奪われる。

可愛い。それこそずっと前から知ってたけど……何故だが目頭が熱くなった。


月仁は俺が誰かにいじめられて泣いてるとすぐに駆け寄ってくれた。涙をぬぐってくれた。


────心配しないで。俺が深白を守るから。


目元を撫でられ、懐かしい記憶が蘇る。

気付けば、月仁は鼻先が触れそうな距離でこちらを見ていた。


近い……。

このままだと当たっちゃうんじゃないか?

心臓がバクバク鳴るのを抑えながら待ってると、彼は何事もなかったように身を引いた。


「やっぱり変わらないな。可愛い」

「もう……また……」


思わず頬を膨らますと、彼は笑いながら横を通り抜けた。


「俺がいるんだから、もう無理すんなよ」


月仁の声は、おかしいぐらいすんなり俺の心に入ってくる。

もう大丈夫だって、思ってしまう。


「じゃ、気をつけて帰れよ」

「あ。また駅まで送るよ」

「大丈夫。帰って休みな」


月仁はまた明日、と行ってしまった。


毎日毎日、なにか言いそびれてる気がする。

正体不明の感情に押し潰されそうな時もあるけど。嬉しい気持ちも日に日に膨らんでいる。


どんどん月仁と一緒にいられる時間が増えていく。俺はもう、どうしようもなく幸せなんだ。


その日の帰りも、スキップしそうなほど足取りが軽かった。




ネクタイを外して、部活も余裕がある時だけ参加して。以前よりずっとのんびり、学生生活を楽しむことができている。


「川音君と貴島君が一緒に歩いてると、すごい目の保養だよね」

「わかるー。あの二人の破壊力やばいよね」


という会話が時々耳に入るけど、俺の存在感はこの頃にはかなり薄れてきていた。

誰かに頼られることはないけど、月仁と話せる時間が増えた。それがたまらなく嬉しい。


「月仁っ。今日はバイト休みの日だろ? どっか寄ってかない?」


午後の授業が終わってすぐ、後ろを振り返る。月仁はつまらなそうに頬杖をついていたが、声を掛けるとわずかに目を見開いた。


「行く」

「やった、決まり。どこにしようかー……何か買いたいもんとかある?」

「そういえば、ちっちゃなもんで色々必要かも。兄貴もあまり家にいないから、色々不足してるんだ」


ないと地味に困る日用品。ただでさえ慣れない家だろうから、彼からすれば大ごとだ。

「よし! じゃあ色々買い物に行こう!」

俺がよく行くお店に案内して、月仁が欲しいものを一緒に探した。画期的な便利グッズを見てると俺まで欲しくなったけど、今日は月仁の為に来てるんだと思い直し、陳列棚に戻した。


「何か、こんな風に買い物すんの初めてだな。楽しい」

「ほんとだな〜」


お菓子なら二人でよく買いに行ったけど、雑貨とか調理器具とかは初めての経験だ。

まるで二人で新生活でも始めそう。ちょっとだけ想像して、いいな、と頷いた。


「テンション上がって、思ったより買っちまった。ごめん、深白」

「大丈夫! その為にいるんだし!」


俺も荷物持ちして、月仁と電車に乗り込んだ。

「家の前まで持ってくよ」

「いや、それは大変だからいいよ。ここまでで付き合ってくれただけで充分」

「だから大丈夫だって。遠慮するなって、お前が俺に言ったんだろ?」




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