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恋人は、あまえた(元)優等生  作者: 七賀ごふん
幼馴染の懸念

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12/21

#2




久しぶりに名前を呼び合ったあの日から、俺の中の何かが弾けた。


皆は相変わらず月仁にご執心だけど、それは俺も同じ。

どこへ行くにも何をするにも月仁と過ごしたし、それは必然的に学校中に知れ渡っていった。


“……川音君、最近は率先して動いてないよね。

先生ともそんなに関わってないし。

あ。生徒会選挙の立候補、辞退したんだって!”


絶対何かあったよね。……という探りの念をひしひしと感じる。


“優等生”として頑張ることをやめた。

今までは品行方正のお手本、皆から好かれ、頼られる存在を目指していたけど、今以上にそのイメージが上がることはないと思えた。


大勢の中のひとりに戻るのはあっという間で、気付けば俺は誰かに引っ張り出されることはなくなっていた。


平和だ。普通ってこんなに平和だったのか。

放課後、内心感動しながら廊下を歩いてると、肩を叩かれた。


「川音。やっといいコちゃんやめたな」

「都波」

君、と付け足すと、彼は呼び捨てでいいと返した。


「どうだよ、楽だろ?」

「確かに。意識されないって、やっぱ良いね。落ち着く」


笑って返すと都波は一瞬固まった。しかしすぐに悪戯っ子のような顔を浮かべ、俺に近付いてきた。

「それなら見た目も合わせろよ。こんなきっちりネクタイ締めないでさぁ」

「わっ! ち、ちょっと!」

都波は恐ろしい手際の良さで、俺からネクタイを奪った。


「ほら、ボタンも外して。……こっちの方が断然近寄りやすいぜ」

「うん……」

「何だよ、浮かない感じだな」


彼が不思議そうに腕を組んだので、正直に告げた。


「真面目そうだから皆近付いてきてくれてたと思うんだ。……恰好変えたら、避けられないかと思って」

「はぁ? そんなわけないだろ。中身はお前なんだし」


都波は笑い、壁に寄りかかった。

「そもそもお前、全校生徒と仲良くなる気か? そんなん無理に決まってんだろ。無理して中身と真逆の恰好なんかしなくていいんだよ」

「やっぱりそうかな」

「そう。少なくとも俺は、素のお前が見たいけど?」

視線が交わる。

いつも隠してる部分を射抜くような視線に、思わず目を逸らした。


都波は、飄々としてるようでよく相手を観察している。


観察してるようで全然相手のことを見てない俺と対照的だ。その後ろめたさから、つい逃げようとしてしまう。


「ま、お前が嫌がっても徐々に剥がれてくと思ってるけどなぁ。貴島効果で」


彼はそれだけ言うと、歩いて行ってしまった。

うぅ……何か色々バレてる気がする。


謎の焦燥を抱えながら教室へ戻ると、月仁が女子からお菓子をもらってる様子が見えた。


モテモテだな……。

ここまでくると清々しいとすら思える。感情を殺したまま彼らの方へ向かうと(俺の席もそこ)、こちらに気付いた月仁が立ち上がった。


「やっと来た。帰るぞ、深白」

「え」


月仁は傍にいる女子に御礼を言うと、俺の鞄を取って渡してくれた。


教室は、月仁が俺を名前で呼んだことにどよめいてる感じだった。

普通は大したことじゃないんだけど、特定の誰かと過ごしたりしない月仁の性格を考えると、それなりの衝撃なんだろう。


妙にはしゃいでる女子達もいた。でも男子はあまり面白くなさそうで、それが少し気にかかった。


「あれ。貴島君、もう帰るの?」

「うん。バイトあるんだ。深白と」

「そうなんだ! 頑張ってね〜」


……っ。

どんどん同じバイトしてることになってくし。これは大丈夫なのか?


学校を出てから、わざと月仁の肩にぶつかった。


「急に名前で呼ぶからびっくりした」

「別にいいだろ? 同じバイトしてればそういう関係になんのも早いってことで」

「つっても、そもそもバイト見つけてないしなぁ……あっ」


ブレない月仁に感心していたけど、あることを思いついて指を鳴らす。


「貴島、皿洗い好き?」

「黙々とできるから好き」

「よし! 俺の家に行こっ」


ということで、月仁を家に連れ帰った。ちょうど店内に両親がいたので、一番にバイトの話をする。

「夜、裏方欲しいって言ってたよね? 月仁に皿洗い頼めないかな?」

「あぁ。月仁君、バイトしたいのかい?」

「あ、はい。ただたくさんシフトに入れるわけじゃないので、お役に立てないかもしれないんですけど」

「いーのいーの! 忙しい時間はいてくれるだけで助かるから!」

二人は、月仁がウチで働くことを喜んでくれた。

簡単なことならともかく、基本は皿洗い担当として。進路のこともあるから、週三から四回で三時間程、という契約。


「月仁君、無理はしないでね。あ、まかないもあるから夜は心配しないで」

「いつも急ですみません。でも、本当にありがとうございます」

「大丈夫よ。月仁君のおかげで、深白は毎日楽しそうよ」


と、母はまた悪気なく恥ずかしいことを言う。

本人がいる前でその手の話は勘弁してくれ。

なるべく真顔を保ち、静かに彼らのやりとりを見守った。


両親は今日もご飯を食べに行けばいいと言ったけど、月仁はやんわり断っていた。

遠慮しなくていいと言っても遠慮してしまうのは、月仁の良いところでもあり、抱え込みやすい性質も表してると思う。


二人で外に出てから、改めて彼に向き直る。


「急だったけど、決まって良かったな! ……ってか勢いで連れて来ちゃったけど、ほんとにウチで良かった?」

「あぁ。……有り難いし、嬉しいし……未だに現実感がない」




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