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恋人は、あまえた(元)優等生  作者: 七賀ごふん
幼馴染の懸念

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11/21

#1




「お父さんとお母さんが元気そうで良かった。お店も繁盛してるみたいだし」


店を出て、駅へ向かって歩く。

月仁はかすかに微笑みながら、ポケットに手を入れた。


「まぁ、すごいポジティブな人達だからね。閑古鳥が鳴いてものらりくらりやると思うよ」

「ははっ」


月仁には困ってる風に言ってしまったけど、何だかんだ仕事をしてる両親が好きだ。

夜更けまで店を開くから独りの時間も多かった。お店の賑わいと対照的で、寂しいこともあったけど……夜中に作ってもらえるご飯も、それはそれで嬉しくて。

「深白は実家を継ぐのもアリかもな」

「う〜ん。……それも、あの人達次第かなぁ」

俺というより、彼らが引退後店を持ち続けるのかも分からない。だからひとまず進学を目指すことにした。


三歩先すら見えない未来。でも、彼が傍にいれば何とかなる気がしている。


「月仁、またウチに来てよ。夜飯ならいつでも作るから」

「……ありがと」


遠慮しなくていいと彼が言ってくれたから、素直に伝えることができた。

行きよりずっと、足取りが軽い。

心も弾んでるのか、スキップしそうになった。


「深白。さっきの話だけど」

「うん?」

「俺は本当に、お前のこと一番に想ってるから」


風に乗って届いた声は、低いけど温かかった。

足を止めて振り返ると、月仁はゆっくり手を差し出した。


「絶対ひとりにしない。……約束する」


小指を前に出される。

何故か懐かしい香りがした。遥か昔にも、こんなことをした気がする。


高校生になって指切りは珍しいかもしれない。でも、嬉しくて俺も小指を差し出した。


「やっぱ月仁は優しいなぁ」

「お前にだけだよ」

「あはは」


そんなことないのに、おどけるところも好きだ。

でも“優しい”とは別に、月仁は俺に甘すぎる気もするけど。


( どっちかって言うと、甘えてほしいんだよな…… )


その為にしっかりしようと奮起したわけだし。

ただそんなことを知らない月仁は、俺にめいっぱい世話を焼いてくる。


「何かあったらすぐ連絡しろよ。帰りも気をつけて、暗い道はなるべく避けて」

「ほいほい」


めっちゃ心配してくれたけど、家は駅から十分もかからない。俺としては月仁の方が心配だから、改札口で背中を軽く叩いた。


「家着いたら、一応連絡して」

「……分かった」


彼は小さく頷く。そのまま行ってしまうと思いきや、自分の鞄につけてたキーホルダーを俺に渡した。

「月仁、これは?」

「預けとく」

そう言うと、今度こそ改札を抜けた。


「じゃあな」

「あ、うん!」


ほんの少し踵を浮かし、彼の後ろ姿が見えなくなるまで佇む。

突然家に誘ってしまったけど……すごい嬉しい一日になってしまった。


それにお互い「好き」って言い合ったよな……。


あれは誘導尋問に近いし、もちろん“友人”として、というのも分かるけど……思い出すと何故か胸の奥がギューッてなる。


熱でもあるんじゃないか、と思うほど、顔も熱い。


俺、本当に月仁を友人として好きなんだろうか。


それにしては一喜一憂し過ぎだ。名前を呼ばれただけで嬉しいし、触れられると心臓が止まりそうになる。


こんなのおかしい。


「はぁ……」


こんな変なことを考えてるのも知られたくないな。

踵を返して家に帰ろうとしたとき、ふと月仁に渡されたキーホルダーを握り締めてることを思い出した。


これ何だろ?

カラビナがついてる。変わった形をしてるからキーホルダーとは違う気がしてよく見ると、どうも防犯ブザーのようだ。


心配してくれるのは嬉しいけど、そこまで弱そうに見られてたとは。

情けなさに項垂れるが、彼なりの好意だ。ぎゅっと握り締め、家路についた。


「ただいま〜」


本日二回目の帰宅。裏から入ると、母が笑顔で顔を覗かせた。

「月仁君、送ってあげられた?」

「うん。でも逆に心配されて、こんなん渡されたけど」

防犯ブザーをちらつかせると、母はあら、と表情を曇らせた。

「多分、苦労もあったんじゃないかしら。久しぶりに会ってびっくりしたけど、彼すごい美形だったもの」

「あぁ……そっか」

なるほど。確かに月仁は高校生にあるまじき魅力があるから、プライベートでも狙われることがありそうだ。


これは自衛用に持ってたんだろう。なら尚さら俺が奪っちゃいけない。


「これは明日返す。……何か手伝うことある?」

「ありがと。それじゃお皿洗い頼めるかしら?」


はーい、と返事して、一旦自室で着替える。

店に行こうとしたときスマホの通知音が鳴った。


「お。月仁」


月仁からのメッセージだ。無事家に着いたことを知らせてくれていた。


こういう安全確認、何かカップルみたい……。


「いやいや! 友達だから!」


何馬鹿言ってるんだ。

セルフツッコミして、頬を叩く。


世界で一番大切な幼馴染を気遣うのは普通のこと。何も特別な意味はない。


そのはず……だよな。


深呼吸し、彼のメッセージに返信する。

『また明日』と添え、スマホを置いた。


落ち着け俺。月仁が言う“好き”も、友人としてに決まってるんだから。


友達として大好きなんだ。


ため息を飲み込み、部屋を出る。

ただ厨房に入って冷たい水に触れても、しばらく顔が熱かった。




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