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敦賀の朝は、静かだった。


まだ家の人が起きる前に、私たちは身支度を整えた。

長くいる場所じゃないと、もう分かっていた。


テレビをつける。


音は小さく。



ニュースが流れる。


京都の事件。


また同じ言葉。


でも、昨日とは違った。



「犯人の特徴は――」


言葉がゆっくり落ちてくる。


似顔絵、年齢、体格、職業。

全てはっきりと出ている。


警察の手は

確実に近づいていると分かった。



私はテレビを消した。


何も言わなかった。


彼も何も言わなかった。



「そろそろ行きましょう」


彼が言った。


穏やかな敬語。


でも、どこか急いでいる声。



港へ向かう。


フェリーのチケットを買う。


人混みの中に紛れる。


マスク。

眼鏡。

キャップ。


誰にも見られないように。



船が動き出す。


陸が少しずつ遠ざかる。


日本が、遠ざかる気がした。



夜。


甲板は寒かった。


海の音だけが聞こえる。



「寒くない?」


彼が言った。


私は顔を上げた。



敬語じゃなかった。


初めてだった。



「……うん」


私は小さく頷いた。



長い沈黙。


でも、不思議と怖くなかった。



彼が近づく。


冷え切った首筋に暖かい手の感触。


無言で唇を重ねた。



遠くで、波の音が続いていた。


世界が二人だけになった夜だった。

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