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朝、目が覚めたとき。


一瞬、どこにいるのか分からなかった。


畳の匂い。

知らない天井。

静かな部屋。


それから思い出す。


全部。



隣の布団は、もう畳まれていた。


はじめさんは窓の前に立っていた。


外を見ている。



「起きましたか」


振り向かずに言う。


いつもの敬語。



「ニュース、やっています」


その一言で、体が固まった。



テレビの前に座る。


リモコンを持つ手が少し震えている。


画面をつける。



京都の殺人事件。


同じ言葉。


同じ映像。


昨日と同じニュースなのに、今日は意味が違った。



「犯行は計画的とみられ――」


それ以上、聞けなかった。


テレビを消した。



沈黙が落ちる。


長い沈黙。



私は、やっと口を開いた。


「どうして」


昨日、言えなかった言葉。



彼はすぐには答えなかった。


窓の外を見たまま、しばらく黙っていた。



「正しいことが、必ず救いになるわけじゃないんです」


静かな声だった。


授業みたいな口調。


でも、違った。



「妹がいたんです」


初めて聞く話だった。



「自慢の妹でした。優しくて可愛い子で。

大学でもミスコンに出てたみたいです」


少し間。


「優勝しました」


「その次の日に、遺体となってみつかりましたが」



私は何も言えなかった。



「男性1人のリーダーによる

 複数人の暴行による殺害だそうです」


「手首に索状痕があり、

 遺体のお腹の中から犯人の体液が出てきたそうです」


声は変わらない。

穏やかなまま。


それが逆に怖かった。



「警察には相談しました」


「でも、リーダー格の犯人の親が権力者らしく、」


「お金による示談を持ちかけてきました」



言葉が途切れる。



「結果こちらの親が憔悴しているうちに

検察は丸め込まれて」


「その事実は犯罪として扱われなくなって」


「妹はただの行方不明者という扱いになって」



窓の外を見たまま、言う。



「ただただ、お金だけのこりました」


沈黙。


部屋の空気が重くなる。



「妹の遺品の携帯に、犯人と思わしき男からの

 連絡が入っていたのを見ました」


ゆっくりとした声。



「だから、僕が、ちゃんと終わらせました」



振り向いた顔は、いつもと同じだった。


穏やかで、静かで。


そして、もう戻れない顔だった。



私は、何も言えなかった。

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