6
朝、目が覚めたとき。
一瞬、どこにいるのか分からなかった。
畳の匂い。
知らない天井。
静かな部屋。
それから思い出す。
全部。
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隣の布団は、もう畳まれていた。
はじめさんは窓の前に立っていた。
外を見ている。
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「起きましたか」
振り向かずに言う。
いつもの敬語。
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「ニュース、やっています」
その一言で、体が固まった。
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テレビの前に座る。
リモコンを持つ手が少し震えている。
画面をつける。
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京都の殺人事件。
同じ言葉。
同じ映像。
昨日と同じニュースなのに、今日は意味が違った。
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「犯行は計画的とみられ――」
それ以上、聞けなかった。
テレビを消した。
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沈黙が落ちる。
長い沈黙。
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私は、やっと口を開いた。
「どうして」
昨日、言えなかった言葉。
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彼はすぐには答えなかった。
窓の外を見たまま、しばらく黙っていた。
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「正しいことが、必ず救いになるわけじゃないんです」
静かな声だった。
授業みたいな口調。
でも、違った。
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「妹がいたんです」
初めて聞く話だった。
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「自慢の妹でした。優しくて可愛い子で。
大学でもミスコンに出てたみたいです」
少し間。
「優勝しました」
「その次の日に、遺体となってみつかりましたが」
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私は何も言えなかった。
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「男性1人のリーダーによる
複数人の暴行による殺害だそうです」
「手首に索状痕があり、
遺体のお腹の中から犯人の体液が出てきたそうです」
声は変わらない。
穏やかなまま。
それが逆に怖かった。
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「警察には相談しました」
「でも、リーダー格の犯人の親が権力者らしく、」
「お金による示談を持ちかけてきました」
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言葉が途切れる。
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「結果こちらの親が憔悴しているうちに
検察は丸め込まれて」
「その事実は犯罪として扱われなくなって」
「妹はただの行方不明者という扱いになって」
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窓の外を見たまま、言う。
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「ただただ、お金だけのこりました」
沈黙。
部屋の空気が重くなる。
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「妹の遺品の携帯に、犯人と思わしき男からの
連絡が入っていたのを見ました」
ゆっくりとした声。
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「だから、僕が、ちゃんと終わらせました」
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振り向いた顔は、いつもと同じだった。
穏やかで、静かで。
そして、もう戻れない顔だった。
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私は、何も言えなかった。




