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電車の窓に、夜の街が流れていた。


見慣れたはずの景色なのに、どこか遠く感じた。

もう戻れない場所みたいに思えた。


向かいの席に座るはじめさんは、ずっと黙ったままだった。

私も、何も話せなかった。



トンネルに入る。


窓が黒くなる。

自分の顔がぼんやり映る。


疲れた顔。

眠れていない目。



トンネルを抜けたとき、外の景色が変わっていた。


暗さが深くなって、街灯の数が減った。


はじめさんが、小さく言った。


「旅って、境目を越える瞬間が一番印象に残るんですよ」


私は何も答えなかった。


答えられなかった。



気がつけば岐阜県まで。


恵那に着いたのは、夜遅くだった。


駅前は静かで、人も少なかった。


二人で歩く。


会話はない。


でも、離れなかった。



見つけたのは、小さな民宿だった。


古い木の看板。

暖かい光。

現実から少し離れた場所みたいだった。



「二人です」


はじめさんが言う。


声はいつも通り、穏やかな敬語。



部屋は畳の匂いがした。


布団が二つ並んでいる。


私は座ったまま動けなかった。



「疲れましたね」


彼が言った。


私は頷いた。


それだけだった。



テレビをつける。


何気ない動作のつもりだった。


ただ、静けさが怖かった。



ニュースが流れた。


京都の殺人事件。


画面に映る街。

見慣れた場所。


聞き慣れた地名。



心臓が強く鳴った。


音が部屋に響いている気がした。



私はテレビを消した。


何も言わなかった。

彼も何も言わなかった。



その夜、私たちは同じ部屋で眠った。


言葉はなかった。


でも、もう日常には戻れないと分かっていた。

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