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エピローグ
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面会室は、思っていたより明るかった。
ガラス越しに座るはじめさんは、少し痩せていた。
頬の線が細くなって、以前より大人しく見える。
でも、目は穏やかだった。
あの苫小牧の部屋にいた人とは、少し違う。
ガラス越しの小さな穴から、声が少しだけ届く。
「久しぶり」
かすかに、でも確かに聞こえた。
優希は小さく頷く。
「元気?」
その問いに、同じように頷く。
それだけで十分だった。
しばらく沈黙が続く。
でも、苦しくない沈黙だった。
逃げ場のない沈黙ではなく、
ただそこにある静けさ。
はじめさんが少し笑う。
「ちゃんと食べてる?」
聞こえる声は以前より落ち着いていた。
「ここ、規則正しいから」
少し照れたように言う。
「意外と健康的だよ」
その言葉に、胸が痛む。
でも、顔は穏やかだった。
「ありがとう」
静かに言う。
「来てくれて」
何も言えない。
言葉が見つからない。
面会終了の合図が鳴る。
短い音。
終わりの音。
「また来て」
小さく言う。
優希は頷く。
ガラス越しに小さく手を振る。
振り返らずに歩き出す。
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外の空気は冷たかった。
深く息を吸う。
長く吐く。
空は広かった。
自由だった。
でも、軽くはなかった。
歩きながら考える。
私の選択は、本当に正しかったのか。
あの時、一緒に逃げずに
すぐに通報していたら。
彼は壊れなかったのかもしれない。
逃亡せずに自首を進めていたら、
罪はここまで重くならなかったのではないだろうか。
愛するならば
いっそ最後まで付き合うべきだったのだろうか。
正しさとは何か。
私にとって正しかったのは。
分からない。
ただ確実にわかることは、
私たちは罪に正当に向き合わず
目を逸らし続けた、
たとえ理由がなんであろうと。
甘くて苦い逃亡生活、
私たちは倫理を犯しました。




