2
二人で食事をするようになるまで、時間はかからなかった。
最初は偶然だった。
バス停で会った数日後、駅前のコンビニで再会した。
その次は大学の近くのカフェ。
三度目で、もう偶然じゃない気がした。
⸻
「また会いましたね」
彼はいつも敬語だった。
⸻
「本当に偶然ですか?」
私がそう言うと、彼は少し困った顔で笑った。
「どうでしょう」
⸻
それから、自然に並んで歩くようになった。
⸻
「学生の頃、よく来ていた店があるんです」
ある日、彼がそう言った。
「もしよければ、一緒にどうですか」
⸻
小さな定食屋だった。
派手じゃない。
でも、落ち着く店。
⸻
「何にします?」
「同じものにします」
そう言うと、彼は少し驚いた顔をした。
⸻
「理由、聞いてもいいですか」
「先生が選ぶなら、美味しそうだから」
⸻
彼は少し笑った。
「期待に応えられるといいんですけど」
⸻
料理が来るまで、他愛もない話をした。
授業の話。
大学の話。
好きな本の話。
彼は話を聞くのが上手だった。
⸻
料理が運ばれてきた。
湯気。
味噌の匂い。
揚げたての音。
私は一口食べて、思わず言った。
「美味しい」
⸻
彼は少しだけ嬉しそうに頷いた。
「そう言ってもらえると安心します」
⸻
少し間があって、彼が言った。
「誰かに美味しいって言われると、
その日って特別になるんですよね」
⸻
その言葉が、なぜか心に残った。
⸻
食事の帰り道。
夜風が少し冷たかった。
⸻
「また行きましょう」
私が言うと、彼はすぐに頷いた。
「ぜひ」
⸻
それから、
二人で食事をすることが当たり前になった。
週に一度。
やがて週に二度。
⸻
気づけば、名前を呼ぶようになっていた。
「優希さん」
敬語のまま、少しだけ距離が近くなった。
⸻
その頃にはもう、わかっていた。
この人の隣にいる時間が、好きだということを。




