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抱きしめたまま、はじめさんは動かなかった。
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呼吸が、少しずつ乱れていく。
肩に触れている手が震えているのが分かる。
さっきまで抱きしめられていたのに、
今はしがみつかれている。
「優希」
小さく名前を呼ぶ。
胸の奥に押し込めていたものが、溢れ出すみたいに。
「ありがとう」
耳元で、かすれる声。
「ほんとに、ありがとう」
腕の力が強くなる。
逃がさないように。
確かめるように。
「もう大丈夫だよね」
ぽつりと呟く。
心臓が跳ねる。
「もう逃げなくていいよね」
時間が止まる。
はじめさんは続ける。
「優希がここにいるなら」
「僕、何もいらない」
腕に力がこもる。
「仕事もいらない」
「外もいらない」
「全部いらない」
呼吸が浅くなる。
「二人でここで暮らそう」
優しい声だった。
いつもと同じ声。
でも。
その言葉は、未来がなかった。
「ずっと一緒にいよう」
胸の奥が冷たくなる。
はじめさんは、何も知らない。
何も見えていない。
逃げ続ける未来を、
幸せだと思っている。
腕の中で、優希は目を閉じた。
この人を守るって、
どういうことなんだろう。
いったい私にとっていま正しいことは何なのか。




