17
熱に浮かされて夜中に目が覚めた。
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部屋は暗いのに、気配だけがあった。
眠っているはずの時間。
静かなはずの時間。
なのに、視線を感じる。
ゆっくり顔を向ける。
椅子に座っていた。
ベッドのすぐ横。
同じ距離。
同じ場所。
じっと、こちらを見ている。
動かない。
瞬きも少ない。
「……寝ないの?」
声がかすれる。
はじめさんが、少しだけ笑う。
「起きちゃった?」
質問には答えない。
「大丈夫?」
逆に聞かれる。
「寝てないの?」
もう一度聞く。
少し沈黙。
それから、小さく言う。
「うん」
あっさり。
「眠れない」
胸が静かに痛くなる。
「優希がいなくなる夢見るから」
冗談みたいな声。
でも笑っていない。
「目を離したらいなくなりそうで」
視線が逸れない。
ずっと、こちらを見ている。
「寝てるときが一番怖い」
小さく笑う。
「起きたらいなくなってそうで」
言葉が続かない。
はじめさんは目を伏せた。
そのまま動かない。
「優希」
名前を呼ぶ声が、少し震えている。
「いなくならないよね」
その瞬間、何かが崩れた。
守られていると思っていた。
守られているはずだった。
違った。
この人は、
もう壊れてしまった。
ゆっくり、足を動かす。
縄が擦れる音。
はじめさんが顔を上げる。
目が大きく見開かれる。
結び目に触れる。
指が震える。
簡単に、ほどける。
本当に、簡単に。
縄が床に落ちる音。
沈黙。
はじめさんが立ち上がる。
何も言えない顔。
優希は立ち上がる。
一歩、近づく。
逃げない。
抱きしめる。
はじめさんの体が硬くなる。
呼吸が止まる。
耳元で言う。
「大丈夫」
少し間を置いて。
「どこにも行かないよ」




