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熱に浮かされて夜中に目が覚めた。



部屋は暗いのに、気配だけがあった。


眠っているはずの時間。

静かなはずの時間。


なのに、視線を感じる。


ゆっくり顔を向ける。


椅子に座っていた。

ベッドのすぐ横。

同じ距離。

同じ場所。


じっと、こちらを見ている。


動かない。

瞬きも少ない。


 


「……寝ないの?」


声がかすれる。


はじめさんが、少しだけ笑う。


「起きちゃった?」


質問には答えない。


 


「大丈夫?」


逆に聞かれる。


 


「寝てないの?」


もう一度聞く。


少し沈黙。

それから、小さく言う。


「うん」


あっさり。


「眠れない」


 


胸が静かに痛くなる。


 


「優希がいなくなる夢見るから」


冗談みたいな声。

でも笑っていない。


 


「目を離したらいなくなりそうで」


視線が逸れない。

ずっと、こちらを見ている。


 


「寝てるときが一番怖い」


小さく笑う。


 


「起きたらいなくなってそうで」


言葉が続かない。


 


はじめさんは目を伏せた。

そのまま動かない。


 


「優希」


名前を呼ぶ声が、少し震えている。


 


「いなくならないよね」


 


その瞬間、何かが崩れた。


 


守られていると思っていた。

守られているはずだった。


 


違った。


 


この人は、

もう壊れてしまった。


 


ゆっくり、足を動かす。

縄が擦れる音。


 


はじめさんが顔を上げる。

目が大きく見開かれる。


 


結び目に触れる。

指が震える。


 


簡単に、ほどける。

本当に、簡単に。


 


縄が床に落ちる音。


 


沈黙。


 


はじめさんが立ち上がる。

何も言えない顔。


 


優希は立ち上がる。

一歩、近づく。


 


逃げない。


 


抱きしめる。


 


はじめさんの体が硬くなる。

呼吸が止まる。


 


耳元で言う。


 


「大丈夫」


 


少し間を置いて。


 


「どこにも行かないよ」

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