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それから、一週間が過ぎた。
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朝と夜の境目が、曖昧になっていた。
カーテンはいつも半分閉じている。
時計を見なければ、今が何時なのか分からない。
生活は静かだった。
驚くほど、静かだった。
「起きてる?」
キッチンから声がする。
「うん」
それだけ答える。
それだけで、十分だった。
足音が近づいてくる。
湯気の立つマグカップをテーブルに置く。
「熱いから気をつけて」
優しい声。
いつも通りの声。
何も変わっていない。
本当に、何も。
違うのは、ひとつだけ。
ベッドの脚と、足首を繋ぐ細い縄。
外そうと思えば、外せる。
固く結ばれているわけじゃない。
鍵がかかっているわけでもない。
手を伸ばせばほどける。
本当に、簡単に。
だからこれは、拘束じゃない。
分かっている。
分かっているのに。
外せない。
「寒くない?」
肩に毛布がかけられる。
指が髪に触れる。
頬に触れる。
やたらと、触れる。
この一週間、触れられなかった日はない。
「買い物行ってくるね」
顎を優しくなでられる。
「すぐ戻るよ」
ドアが閉まる。
静かになる。
縄が、わずかに擦れる音がした。
見下ろす。
白い足首。
赤くなった痕。
じっと見ていると、胸が痛くなる。
痛いのは、皮膚じゃない。
ほどける。
分かっている。
今すぐ、ほどける。
でも、手が動かない。
外したら、終わる気がした。
彼は壊れる。
本当に壊れてしまう。
それが分かってしまった。
この一週間で、分かってしまった。
ドアが開く音がする。
早い。
いつもより早い。
「ただいま」
袋の音。
パンの匂い。
笑う気配。
「今日は君の好きなの買ってきた」
テーブルに並べる。
嬉しそうに、こちらを見る。
その顔を見た瞬間。
胸が、締めつけられる。
「どうしたの?」
首をかしげる。
本当に不思議そうに。
答えられない。
はじめさんが近づいてくる。
ベッドの端に座る。
縄を見ても、何も言わない。
代わりに、優しく頭を撫でる。
「こうしてるとさ」
少し笑って言う。
「普通の恋人みたいだね」




