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雪は、音を奪う。


外はずっと白く、

遠くの車の音さえ届かない。

世界がここだけ切り離されたみたいだった。



暖房はついているのに、部屋は冷えている。

床に落ちた空気が、ずっと冬のままだ。


彼は窓の前に立ったまま動かない。

私は毛布にくるまり、ただ見ている。


どちらも、何も言わない。


言葉は、使い方を忘れた。



夜になると、同じベッドに入る。

電気はつけない。

互いの顔を見ないためだった。



暗闇の中で、手だけが絡み合う。


指先が触れた瞬間、

互いに息を止める。



それから、ほとんど同時に抱きしめ合う。



壊れたものを拾い上げるみたいに、

ゆっくり、慎重に。



彼の胸に顔を押しつけると、

暖かい血の流れる音。



それと同時にあの日感じた血の匂い。

そんなことはないとわかっている。

でも、消えない。


呼吸が浅くなる。


私を抱く彼の力が、強くなる。

骨が軋むほど。


痛いのに、離れたくない。


むしろ、その痛みで安心する。


ここにいる。

まだ、生きている。



彼の指が背中の骨をなぞる。

確かめるように、何度も同じ場所を。


逃げないかどうか、

確かめているみたいだった。



私は服の中に手を滑り込ませる。

冷たい皮膚。

外の冬をそのまま持ち込んだみたいな体温。

暖かい指に彼が微かに震える。


思わず抱きつく力が強くなる。


体温を分け合うというより、

奪い合っている感覚だった。



眠れない夜が続く。


目を閉じるたび、

光景が戻ってくる。


白い光。

鈍い音。

赤い色。


息が詰まる。


毎日お互い確かめ合うように抱き合った。

何度も。

何度も。


互いに同じ夢を見ていることを、

言葉にしなくても知っている。



朝、彼はキッチンに立つ。

何も食べないのに、湯だけ沸かす。


湯気を見ている背中が、ひどく疲れている。


私は後ろから抱きつく。


一瞬、身体が強張る。

それから、力が抜ける。


彼の手が、私の腕に重なる。

指先が震えている。


それだけで、胸が締めつけられる。


 


罪は、重さを持つ。


見えないのに、身体に残る。

骨の内側に沈んで、消えない。


息をするたび、擦れる。


それでも、

抱き合っている間だけは、

少し軽くなる。





雪は止まない。


この町は、逃げ場のない静けさで満ちている。


どこへも行けない。

どこにも戻れない。


だから、抱き合う。


壊れないように。

崩れないように。


互いの体温に、しがみつくみたいに。

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