11
雪は、音を奪う。
外はずっと白く、
遠くの車の音さえ届かない。
世界がここだけ切り離されたみたいだった。
暖房はついているのに、部屋は冷えている。
床に落ちた空気が、ずっと冬のままだ。
彼は窓の前に立ったまま動かない。
私は毛布にくるまり、ただ見ている。
どちらも、何も言わない。
言葉は、使い方を忘れた。
⸻
夜になると、同じベッドに入る。
電気はつけない。
互いの顔を見ないためだった。
暗闇の中で、手だけが絡み合う。
指先が触れた瞬間、
互いに息を止める。
それから、ほとんど同時に抱きしめ合う。
壊れたものを拾い上げるみたいに、
ゆっくり、慎重に。
彼の胸に顔を押しつけると、
暖かい血の流れる音。
それと同時にあの日感じた血の匂い。
そんなことはないとわかっている。
でも、消えない。
呼吸が浅くなる。
私を抱く彼の力が、強くなる。
骨が軋むほど。
痛いのに、離れたくない。
むしろ、その痛みで安心する。
ここにいる。
まだ、生きている。
彼の指が背中の骨をなぞる。
確かめるように、何度も同じ場所を。
逃げないかどうか、
確かめているみたいだった。
私は服の中に手を滑り込ませる。
冷たい皮膚。
外の冬をそのまま持ち込んだみたいな体温。
暖かい指に彼が微かに震える。
思わず抱きつく力が強くなる。
体温を分け合うというより、
奪い合っている感覚だった。
⸻
眠れない夜が続く。
目を閉じるたび、
光景が戻ってくる。
白い光。
鈍い音。
赤い色。
息が詰まる。
毎日お互い確かめ合うように抱き合った。
何度も。
何度も。
互いに同じ夢を見ていることを、
言葉にしなくても知っている。
⸻
朝、彼はキッチンに立つ。
何も食べないのに、湯だけ沸かす。
湯気を見ている背中が、ひどく疲れている。
私は後ろから抱きつく。
一瞬、身体が強張る。
それから、力が抜ける。
彼の手が、私の腕に重なる。
指先が震えている。
それだけで、胸が締めつけられる。
罪は、重さを持つ。
見えないのに、身体に残る。
骨の内側に沈んで、消えない。
息をするたび、擦れる。
それでも、
抱き合っている間だけは、
少し軽くなる。
⸻
雪は止まない。
この町は、逃げ場のない静けさで満ちている。
どこへも行けない。
どこにも戻れない。
だから、抱き合う。
壊れないように。
崩れないように。
互いの体温に、しがみつくみたいに。




