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雪は、音を消す。
そして私たちは、世界から消えた。
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苫小牧の住宅街は、
夜になるとほとんど息をしていないみたいだった。
街灯の下に落ちる雪だけが、
時間が進んでいる証拠だった。
彼が見つけた空き家は、
二階建ての古い一軒家だった。
鍵は壊れていて、
玄関は少し押すだけで開いた。
中には生活の残り香があった。
食器棚。
色褪せたカーテン。
押し入れの布団。
まるで
「少し出かけてくる」と言って出たまま、
戻らなかった家みたいだった。
彼は何も言わず、靴を脱いだ。
私も同じように靴を脱いだ。
それだけで、
ここが私たちの家になった。
暖房は古い石油ストーブしかなかった。
灯油の匂いが、部屋に広がる。
その匂いで、やっと現実が戻ってきた。
生きている。
逃げている。
二人で。
彼は窓の外を長く見ていた。
雪しかない景色を。
「しばらく、ここにいよう」
小さくそう言った。
私は頷いた。
理由なんて必要なかった。
ここには、誰もいないから。
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最初の夜。
布団は一組しかなかった。
当然のように、二人で潜り込んだ。
当然じゃないのに、当然みたいに。
天井のシミを見ながら、
私は眠れずにいた。
彼の呼吸が、すぐ隣でゆっくり上下している。
人が隣にいる。
それだけで安心するなんて、思わなかった。
怖いはずなのに。
全部壊れているはずなのに。
胸の奥にあったのは、
恐怖じゃなかった。
静かな安堵だった。
「……ごめん」
暗闇の中で、彼が言った。
何に対してなのか、
聞かなくてもわかった。
妹のこと。
殺した人たちのこと。
私をここまで連れてきたこと。
全部。
「私も」
それしか言えなかった。
共犯者になった瞬間だった。
その夜、私たちは初めて抱き合った。
寒さをしのぐように、
共有した罪を確かめ合うように、
絡め合う手が、
溺れる人が、
何かにしがみつくみたいだった。
確かめたかった。
ここにいること。
一人じゃないこと。
彼の手が、私の背中を強く抱き寄せた。
その力が、私たちの罪の重さみたいだった。
離れたら、全部崩れてしまいそうだった。
だから、離れなかった。
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朝になっても、雪は止んでいなかった。
世界はまだ、
私たちを見つけていなかった。




