偽りの神
屋敷の応接室は、珍しく重い空気に包まれていた。
ゴードン「国内で、妙な噂が立っている」
低く、抑えた声。
ゴードン「幻術士が神を名乗り、市民に“祝福”を与える代わりに金品を貢がせているそうだ」
サナ「……やはり、動き出しましたか」
サナは目を伏せる。
聖女としてではなく、状況を読む顔だった。
サナ「神の使いの伝承を逆手に取ったのじゃろう。幻を見せ、信仰を煽る……古典的じゃが、厄介じゃ」
ゴードン「被害者は?」
サナ「既に複数。中には、生活が立ち行かなくなった者もおる」
控えめなノックの音。
コハル「……失礼します。聖女様、客人が」
連れて来られたのは、小柄な少女だった。
青い髪。背は低く、身体の線も幼い。視線は常に床を向いている。
ユメ「……あ、あの……」
サナ「名を」
ユメ「……ぼくは、ユメ、です」
ゴードン「どういった用件かな」
ユメ「……神さまに、会いました」
その一言で、空気が引き締まる。
ユメ「街の外れの祠で……光が出て……声がして……“守ってあげる”って……」
小さな手が、ぎゅっと握られる。
ユメ「家のお金……全部、捧げました。でも……」
声が、震える。
ユメ「……何も、変わらなかった」
沈黙。
サナが、ゆっくりと首を横に振る。
サナ「それは神ではない」
断定。
サナ「貴女は、騙されたのじゃ」
ユメ「……やっぱり、ぼく……間違ってたんだ」
その言葉に、胸が締めつけられた。
ゴードン「違う、騙す奴が悪いんだ」
一拍置いて、サナが微笑んだ。
サナ「良い返しじゃ」
サナはゴードンへ向き直る。
サナ「この件、妾が主導する。偽りの神は、放置できぬ」
ゴードン「屋敷として、被害者の保護を優先しよう。この子も——」
ユメは、ぎゅっと裾を掴む。
ユメ「……ここに、いても……いい、ですか」
ゴードン「無論だ」
居場所が、ひとつ、できた。
偽りの神。
騙された少女。
この国の信仰は、
静かに、だが確実に揺れ始めている。




