事情聴取
翌朝。
屋敷の小応接室。
朝日が差し込み、
昨夜の祭りが嘘のように静かだった。
テーブルを挟んで向かい合う二人。
聖女サナ。
そしてメイド、コハル。
アカネは――
二日酔いで寝かされている。
コハル「では」
コホン、と一つ咳払い。
コハル「昨夜の件、
事実確認をさせていただきます」
サナ「……何のじゃ」
嫌な予感。
コハル「まず」
淡々と。
コハル「神の生誕祭において、
アカネは初めて祝酒を口にしました」
サナ「……うむ」
コハル「量は“少量”と仰いましたが」
視線を上げる。
コハル「実際には、
“がぶ飲み”でした」
サナ「……どうじゃったかな」
コハル「次」
紙を一枚めくる。
コハル「ハイテンション状態に移行」
サナ「……」
コハル「声量上昇」
サナ「……」
コハル「聖女様との距離感消失」
サナ「……待て」
コハル「続けます」
止まらない。
コハル「顔面紅潮。
可愛い、との評価が
周囲から多発」
サナ「……評価は要らぬ」
コハル「記録ですので」
さらに一枚。
コハル「甘え行動、発生」
サナ「……」
コハル「発言――
『サーナちゃん、だっこして』」
サナ「…………」
視線が泳ぐ。
コハル「実行されました」
サナ「……」
コハル「しかも即時」
サナ「……神官が見ておったか?」
コハル「全員、
目を逸らしました」
サナ「……そうか」
コハル「次」
淡々。
コハル「給仕された料理に対し、
『たべさせて』発言」
サナ「……」
コハル「『あーん』、確認」
サナ「……」
コハル「一度ではなく、
三回」
サナ「……回数まで言うな」
コハル「最後」
一拍置く。
コハル「抱きつき」
サナ「……」
コハル「『ぎゅーして』要請」
サナ「……」
コハル「受諾」
サナ「……」
コハル「そのまま、
安心して就寝」
沈黙。
時計の音だけが響く。
サナ「……」
深く息を吐く。
サナ「それで?」
コハル「以上です」
サナ「……感想は?」
コハル「ありません」
即答。
コハル「事実のみです」
サナ「……」
額に手を当てる。
サナ「妾は……
何か、まずいことをしたか?」
コハル「はい」
即答。
サナ「どこがじゃ」
コハル「全部です」
サナ「……」
コハル「なお」
追撃。
コハル「周囲の認識ですが」
サナ「……聞きたくないのじゃ」
コハル「『聖女様が神の使いを正式に囲った』
という噂で統一されました」
サナ「……」
完全に沈黙。
コハル「ちなみに」
さらっと。
コハル「アカネ本人は、
ほぼ覚えておりません」
サナ「……」
目を閉じる。
サナ「……それは、救いか?」
コハル「いいえ」
サナ「……なぜじゃ」
コハル「これから、
周囲が“そういう目”で見ますので」
サナ「……」
そのとき。
廊下から、弱々しい声。
アカネ「……コハルさん……
お水……」
コハルが立ち上がる。
コハル「今、持っていきます」
扉の前。
コハルは、振り返る。
コハル「聖女様」
サナ「……なんじゃ」
コハル「昨夜」
一瞬だけ、
柔らかく微笑む。
コハル「アカネ、
本当に幸せそうでした」
扉が閉まる。
サナは、一人残される。
サナ「……」
小さく呟く。
サナ「……ずるいのは、
妾の方かもしれんのう」
サナは理解した。
昨夜は、
神の生誕祭ではなく――
聖女の陥落記念日だったと。




