嫉妬
夕方。
屋敷の応接室。
紅茶の湯気が、静かに立ち上っている。
コハル「……はぁ」
コハルが、深いため息をついた。
サナ「どうしたのじゃ?」
向かいのソファで、サナが穏やかに首を傾げる。
白髪が、光を受けてきらりと揺れた。
コハル「アカネのことです」
サナ「……アカネに、何かあったのじゃ?」
声は柔らかい。
だが、微かに探る色が混じる。
コハル「もう……
あの子、自分の立場、分かってなさすぎです」
サナ「ほう?」
コハル「街で、普通に男と話しますし」
サナ「……」
コハル「笑顔で礼言いますし」
サナ「……」
コハル「銀貨まで受け取って、
次もお願いします、みたいな流れになるし」
サナ「…………」
紅茶の表面が、わずかに波打った。
微笑むが、どこか硬い。
コハル「聖女様も分かるでしょう?」
コハル「アカネ、
どれだけ目立つ存在か、
全然自覚しとりません」
サナ「……分かっておる」
即答。
サナ「妾には、痛いほど分かるのじゃ」
カップをそっと置く。
サナ「黒髪で、
神の使いで、
異界から来て、
しかもあれだけ素直……」
指を組む。
サナ「無防備にも程があるのじゃ」
コハル「ですよね!?」
しばし沈黙。
サナは視線を落とし、静かに言う。
サナ「……じゃがな」
コハル「?」
サナ「アカネが、誰にでも優しいのは」
声が、少しだけ柔らぐ。
サナ「生き方じゃ」
コハル「……」
サナ「それに」
顔を上げる。
サナ「アカネは、
最後には必ず戻ってくる」
コハル「……ここに?」
サナ「うむ。
妾のところに、じゃ」
コハル「……」
サナは、穏やかに微笑む。
そして、ぽつりと。
サナ「……妾の方が、先に出会っておる」
コハル「」
サナ「妾の方が、
あの子の秘密も、
孤独も、
全部知っておる」
少し胸を張る。
サナ「それで、十分じゃ」
コハル「……聖女様」
サナ「なんじゃ?」
コハル「嫉妬、してはります?」
サナ「」
一拍。
サナ「……しておらぬ」
コハル「してますやん」
サナ「しておらぬと言っておるじゃろ」
コハル「声、低いです」
サナ「……」
そのとき。
廊下から足音。
アカネ「コハルさん、聖女様」
二人同時に振り向く。
アカネ「お茶、足りますか?」
サナ「足りておる」
コハル「足ります」
アカネ「?」
不思議そうに首を傾げる。
サナ「アカネ」
アカネ「はい」
サナ「……」
一瞬、言葉を選ぶ。
サナ「外で誰かと話すときはな」
アカネ「?」
サナ「必ず、
無事に戻ってくるのじゃ」
アカネ「……?」
アカネ「それは……
もちろんです」
アカネが去った後。
コハル「……完全に無自覚」
サナ「……」
サナは小さく息を吐く。
サナ「じゃからこそ」
静かに、しかしはっきり。
サナ「妾が、一番近くにおる」
コハル「……はいはい」
コハル(聖女様、
拗ね方が上品で余計ややこしいわ……)
遠く。
狐の神が、尻尾を揺らす。
お狐様(声)
「独占欲を理性で包むとか、
ほんま人間は面倒で可愛いのう」




