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異世界行ったら聖女様に溺愛されました  作者: うみのうさぎ
聖女の私情

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22/25

嫉妬

夕方。

 屋敷の応接室。


 紅茶の湯気が、静かに立ち上っている。


コハル「……はぁ」


 コハルが、深いため息をついた。


サナ「どうしたのじゃ?」


 向かいのソファで、サナが穏やかに首を傾げる。

 白髪が、光を受けてきらりと揺れた。


コハル「アカネのことです」


サナ「……アカネに、何かあったのじゃ?」


 声は柔らかい。

 だが、微かに探る色が混じる。


コハル「もう……

 あの子、自分の立場、分かってなさすぎです」


サナ「ほう?」


コハル「街で、普通に男と話しますし」


サナ「……」


コハル「笑顔で礼言いますし」


サナ「……」


コハル「銀貨まで受け取って、

 次もお願いします、みたいな流れになるし」


サナ「…………」


 紅茶の表面が、わずかに波打った。

 微笑むが、どこか硬い。


コハル「聖女様も分かるでしょう?」


コハル「アカネ、

 どれだけ目立つ存在か、

 全然自覚しとりません」


サナ「……分かっておる」


 即答。


サナ「妾には、痛いほど分かるのじゃ」


 カップをそっと置く。


サナ「黒髪で、

 神の使いで、

 異界から来て、

 しかもあれだけ素直……」


 指を組む。


サナ「無防備にも程があるのじゃ」


コハル「ですよね!?」


 しばし沈黙。


 サナは視線を落とし、静かに言う。


サナ「……じゃがな」


コハル「?」


サナ「アカネが、誰にでも優しいのは」


 声が、少しだけ柔らぐ。


サナ「生き方じゃ」


コハル「……」


サナ「それに」


 顔を上げる。


サナ「アカネは、

 最後には必ず戻ってくる」


コハル「……ここに?」


サナ「うむ。

 妾のところに、じゃ」


コハル「……」


 サナは、穏やかに微笑む。


 そして、ぽつりと。


サナ「……妾の方が、先に出会っておる」


コハル「」


サナ「妾の方が、

 あの子の秘密も、

 孤独も、

 全部知っておる」


 少し胸を張る。


サナ「それで、十分じゃ」


コハル「……聖女様」


サナ「なんじゃ?」


コハル「嫉妬、してはります?」


サナ「」


 一拍。


サナ「……しておらぬ」


コハル「してますやん」


サナ「しておらぬと言っておるじゃろ」


コハル「声、低いです」


サナ「……」


 そのとき。


 廊下から足音。


アカネ「コハルさん、聖女様」


 二人同時に振り向く。


アカネ「お茶、足りますか?」


サナ「足りておる」


コハル「足ります」


アカネ「?」


 不思議そうに首を傾げる。


サナ「アカネ」


アカネ「はい」


サナ「……」


 一瞬、言葉を選ぶ。


サナ「外で誰かと話すときはな」


アカネ「?」


サナ「必ず、

 無事に戻ってくるのじゃ」


アカネ「……?」


アカネ「それは……

 もちろんです」


 アカネが去った後。


コハル「……完全に無自覚」


サナ「……」


 サナは小さく息を吐く。


サナ「じゃからこそ」


 静かに、しかしはっきり。


サナ「妾が、一番近くにおる」


コハル「……はいはい」


コハル(聖女様、

 拗ね方が上品で余計ややこしいわ……)


 遠く。


 狐の神が、尻尾を揺らす。


お狐様(声)

「独占欲を理性で包むとか、

 ほんま人間は面倒で可愛いのう」

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