神のご加護
その日は、街での買い物日和だった。
アカネ「紙と糸と……あ、あと砂糖ですね」
コハル「買いすぎや。
けど、式神ごっこ続いとるし、しゃーないか」
市場は人通りが多く、活気に満ちている。
——その少し離れた場所。
黒い外套の一団が、視線を交わした。
反聖女派A(……確認した。黒髪の女だ)
反聖女派B(聖女の庇護下……だが、単独行動)
反聖女派C(今しかない)
計画は単純。
神の使いを拉致し、聖女の優位を崩す。
完璧——の、はずだった。
買い物袋が、予想以上に増えた。
アカネ「……重いですね」
コハル「だから言うたやろ」
そのとき。
御者「お嬢さん、よかったら乗っていかれます?」
振り返ると、年配の御者が馬車の手綱を握っていた。
御者「この辺り、物騒でしてねぇ」
コハル「……は?」
警戒しかけた、その瞬間。
——ゴトン
反聖女派Aが、派手に転んだ。
反聖女派A「なっ!?」
反聖女派B「何だ今の!?」
足元の石畳が、都合よく緩んでいた。
誰も触れていない。
だが確実に、“タイミングが悪すぎた”。
アカネ「……?」
私は気づかず、御者を見る。
アカネ「親切ですね。
お願いします」
コハル「ちょ、アカネ——」
御者「さ、どうぞどうぞ」
馬車に乗り込んだ瞬間。
——バチッ
遠くで、反聖女派Cの外套が街灯に引っかかり、派手に破れた。
反聖女派C「ぐっ……!」
反聖女派B「おい、計画が——」
反聖女派Bの声は、突然通り過ぎた巡回兵の足音にかき消される。
巡回兵「……今、誰か騒いでたか?」
反聖女派(((……まずい)))
馬車の中。
アカネ「助かりました。
歩きだと大変で」
御者「いえいえ。
今日は妙に運が良くてね」
妙に。
コハル「……運、な」
窓の外。
反聖女派Aは巡回兵に職質され、
反聖女派Bは市場の露店を倒して謝罪に追われ、
反聖女派Cは野良犬に追われて逃走していた。
——すべて、偶然。
あまりにも、都合のいい偶然。
目的の店に到着。
御者「ここですよ」
アカネ「ありがとうございます」
支払いをしながら、にこっと笑う。
アカネ「今日は、本当に助かりました」
御者「はは……
お嬢さん、何か守られてますな」
アカネ「?」
御者「いえ、独り言です」
馬車は、去っていった。
コハル「……なぁ、アカネ」
アカネ「はい?」
コハル「今の、普通やと思う?」
アカネ「え?
親切な御者さんでしたよ?」
コハル「……せやな」
コハルは、遠い目をした。
コハル「めっちゃ、親切やったな……」
その頃、大神殿の裏。
反聖女派A「なぜ……なぜ失敗した……」
反聖女派B「石畳が崩れ、兵が現れ、馬車が……」
反聖女派C「……神が、邪魔したとしか……」
沈黙。
反聖女派A「……やはり、“神の使い”か……」
夕方。
アカネ「買い物、全部済みましたね」
コハル「……スムーズすぎて怖いわ」
アカネ「?」
私は首を傾げる。
アカネ「今日は、運が良かっただけですよ」
——その背後。
誰にも見えない場所で、
狐の尻尾が、満足そうに揺れた。
お狐様(声)「いや〜、ええ買い物日和やったなぁ」
神の介入は、
常に“自然”に見えるように起こる。
だからアカネは、知らない。
今日もまた、
世界が彼女に都合よく動いたことを。




