聖女の真実
正午過ぎ。
屋敷の前に整然と並ぶ白と金の装束。
大神殿の神官団だった。
コハル「……来たで」
ユメ「……やっぱり……」
先頭の老神官が、一歩進み出る。
神官長「聖女サナ殿。
そして——黒髪の御方」
その呼び方に、胸がざわつく。
サナ「用件は分かっておる」
サナは、微動だにせず答えた。
サナ「町の病が、一夜で消えた件じゃな」
神官長「はい」
神官長の視線が、私に注がれる。
神官長「広範囲・無差別・無償。
これは明確な神威の顕現」
神官長「よって我々は、この御方を——
大神殿管理下に置く」
アカネ「……!」
思わず、息を呑む。
その瞬間。
サナ「——却下じゃ」
空気が、ぴたりと止まる。
神官長「……何と?」
サナ「その奇跡は、妾の監督下で起きた」
サナは、一歩前に出る。
サナ「そして妾は——
神託を、歪みなく聴ける唯一の存在じゃ」
神官団が、ざわめいた。
神官A「な……」
神官B「その話は……」
神官長「聖女サナ……
それは、神殿上層部のみが知る——」
サナ「今、初めて聞いた者もおろうな」
サナの胸元で、聖印が淡く光る。
サナ「他の聖職者が聴く神託は、断片。
象徴。解釈が必要な“音”じゃ」
サナ「だが妾は違う」
静かに、しかし断定的に。
サナ「文章として、意味として、意志として聴ける」
完全な沈黙。
神官長の顔から、血の気が引く。
神官長「……ゆえに、あなたは……」
サナ「そうじゃ」
サナ「神殿が“判断役”として妾を置いておる理由じゃ」
サナは、私の肩に手を置く。
サナ「この黒髪の御方に関しても、
妾はすでに神託を受けておる」
アカネ「……え……?」
サナ「内容は——非公開じゃ」
神官長が、ゆっくりと頭を下げた。
神官長「……失礼しました」
神官長「聖女殿の管理下であるなら、
大神殿はこれ以上、介入いたしません」
コハル「……引いた」
ユメ「……ほんとに……」
神官団が去った後。
張りつめていた空気が、ようやく緩む。
アカネ「……聖女様」
サナ「何じゃ」
アカネ「神託って……
そんなに、はっきり……」
サナ「聞こえておる」
即答だった。
サナ「神の言葉は、常に明確じゃ。
曖昧なのは、受け取る側じゃからな」
そして、少しだけ声を落とす。
サナ「……だからこそ」
サナ「貴女の存在が、
どれほど“危うく”、どれほど“尊い”かも——
分かってしまう」
私は、言葉を失う。
神殿は引いた。
だがそれは、サナがいる限りの話。
そして——
彼女だけが、すべてを知っている。




