町の異変
異変は、翌朝だった。
市場通り。
いつもなら咳き込む老人、包帯を巻いた商人、顔色の悪い子どもたちがいる時間帯。
——今日は、いない。
町人A「……あれ?」
町人B「そういや、昨夜から身体が軽いんやが……」
町人C「うちの子、熱が下がっとる……」
ざわめきが、ざわりと質を変える。
屋敷にも、報告が届いた。
ゴードン「街の軽病、持病、原因不明の不調……
一晩で消えたそうだ」
コハル「……は?」
ユメ「……そんな……」
私は、嫌な予感がしていた。
アカネ「……形代……」
昨夜、何気なく作った白い紙の人形。
屋敷の門前に置いただけ。
それだけだった。
サナ「……やはり」
サナは、静かに目を伏せる。
サナ「町全体に溜まっていた“澱”が祓われた」
コハル「澱って……病気やろ?」
サナ「病は結果じゃ。
原因は、恐れ、疑い、不安……」
サナは、私を見る。
サナ「それを、貴女が——
無差別に、しかし均等に流した」
アカネ「……そんなつもりじゃ……」
私は、俯く。
アカネ「ただ……
“悪いものは、ここで終わり”って……」
ゴードン「……それで町一つ、浄化されたと?」
サナ「そうじゃ」
断言だった。
その日の昼。
屋敷の門前に、人が集まり始めた。
町人「黒髪の……神の使い様は……?」
町人「昨日から、身体が……」
町人「お礼を……!」
私は、思わず後ずさる。
アカネ「……違います。
私は、何も……」
コハル「いや、無理やってそれ」
ユメ「……目、真剣……」
人々の視線は、信仰に近い。
その様子を、サナは冷静に見ていた。
サナ「まずいな」
アカネ「え……?」
サナ「病が一掃された。
次に来るのは——」
サナが、はっきり言う。
サナ「奇跡の独占要求じゃ」
コハル「……あー……」
ユメ「……囲われる……」
サナは、一歩前に出る。
サナ「安心せい。
妾が、盾になる」
そして、小さく、しかし確実に。
サナ「……貴女は、妾の管理下じゃ」
アカネ「えっ」
サナ「冗談半分、本気半分じゃ」
白髪の聖女は、町を見下ろす。
この奇跡が、
祝福で終わるか、災厄になるか。
分岐点は、もう——すぐそこだった。




