特別な力
露店通りを離れ、屋敷へ戻る途中。
まだ、空気のどこかが張りつめていた。
アカネ「……聖女様って、本当に特別な力があるんですね」
サナ「今さら何を言う」
サナは当然のように返す。
アカネ「宣言しただけで、神罰が下るなんて……」
少し間を置いて、私は続けた。
アカネ「……私も、“黒髪は神の使い”って言われてますよね」
コハル「せやな。
この国じゃ、ただの縁起もんやけど」
アカネ「でも……」
私は、自分の髪に触れる。
アカネ「もし本当に意味があるなら……
私にも、何か出来ないのかなって」
ユメ「……何か、って?」
アカネ「例えば……」
屋敷に戻り、私は文具棚から白い紙を一枚取った。
アカネ「日本だと……
式神とか、形代っていうんです」
コハル「しき……がみ?」
サナ「ほう」
私は、静かに紙を折り始める。
無駄のない動きで、はさみを入れる。
ちょき、ちょき。
白い紙が、人の形になっていく。
ユメ「……人形……」
アカネ「災いを、これに移して……
代わりに流したり、祓ったり」
コハル「迷信やろ?」
——そのはずだった。
人形を、机の上に置いた瞬間。
ふわりと、風もないのに紙が揺れた。
ユメ「……今……」
コハル「動いた……?」
室内の空気が、わずかに冷える。
サナ「……」
サナだけが、目を細めていた。
サナ「……妾は、今……
“気配”を感じた」
アカネ「え……?」
私は、慌てて手を引く。
アカネ「な、何もしてません。
ただ、切っただけで……」
サナ「それで十分じゃ」
サナが、低く告げる。
サナ「形代は、意思を宿す器。
そこに“意味”を込めて作れば……」
サナは、人形を指差す。
サナ「世界が、勝手に解釈する」
コハル「……なんやそれ、怖いやん」
ユメ「……でも……」
ユメが、そっと言う。
ユメ「アカネさんが作ると……
なんだか、安心する……」
私は、人形を見つめる。
ただの白い紙。
なのに、なぜか——目が離せない。
アカネ「……試しに、ですけど」
私は、人形を両手で包む。
アカネ「“悪いものは、ここで終わり”」
その瞬間。
ぱちんと、小さな音。
人形の端が、ふっと焦げるように消えた。
コハル「っ!?」
ユメ「……!」
私は、息を呑む。
アカネ「……今の……」
サナ「……」
サナは、はっきりと頷いた。
サナ「貴女、
無意識で祓いを成立させおった」
アカネ「……え……」
サナ「黒髪が神の使いとされる理由——
“余計な理屈を通さず、意味を通す”からじゃ」
サナが、私を見る。
真っ直ぐで、熱を帯びた視線。
サナ「……やはり、貴女は」
言葉を切り、ゆっくりと。
サナ「放っておけぬ」
コハル「重いわ!」
ユメ「……でも……すごい……」
机の上には、
少し欠けた白い人形。
それは、
ただの紙ではなくなっていた。




