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異世界行ったら聖女様に溺愛されました  作者: うみのうさぎ
神の力

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12/25

神罰

露店が並ぶ通りの外れ。

 白布の天幕の下、薬師は自信満々に客を迎えていた。


薬師「さあさあ、飲めば分かる!

 神の恵みを調合した奇跡の薬だ!」


 その声に、足を止める人々。


コハル「……堂々としとるな」


ユメ「……」


 私は、一歩前に出た。


アカネ「その薬、少し聞いてもいいですか?」


薬師「おや、お嬢さん。

 顔色がいい。うちの薬、もう飲んだことが?」


アカネ「昨日、少量を」


 薬師の目が、一瞬だけ光る。


薬師「ほう! どうでした?」


アカネ「……気分が高揚しました」


薬師「ほら見ろ! 効いただろう!」


 周囲が、ざわめく。


薬師「元気になった! 痛みが消えた!

 それが“効いた”証拠だ!」


アカネ「でも——」


 私は、言葉を切る。


アカネ「治ってはいません」


薬師「何?」


アカネ「あなたの薬は、原因を取り除かない。

 一時的に感覚を鈍らせるだけです」


薬師「言いがかりだ。

 人は皆、楽になったと言っている」


アカネ「ええ。

 “楽になった”だけです」


 私は、周囲を見回す。


アカネ「その後、また同じ症状が出た人、いませんか?」


 沈黙。

 視線が、薬師から逸れる。


薬師「……それは、飲み足りないからだ」


アカネ「違います」


 私は、静かに続ける。


アカネ「量を増やせば、反動も大きくなる。

 内臓に負担がかかり、いずれ悪化する」


薬師「証拠は?」


 そこで、サナが前に出た。


サナ「妾が、証拠じゃ」


 空気が、変わる。


サナ「妾は聖女。

 “治癒”と“高揚”の違いは、誰よりも知っておる」


薬師「……っ」


サナ「貴様の薬には、治癒の気配が一切ない」


 薬師は、苦笑した。


薬師「……聖女様でも、万能ではあるまい。

 人が楽になったと言っている。それで十分だ」


アカネ「十分じゃありません」


 私は、はっきり言う。


アカネ「あなたは、不安を売っている」


 ざわり、と人垣が揺れる。


アカネ「治らない現実を、

 “今だけ忘れさせる液体”に変えて」


薬師「……金を払うのは、向こうだ」


コハル「最低やな」


ユメ「……」


人垣のざわめきが、波のように広がる中。

 サナが一歩、前に出た。


サナ「——ここまでじゃ」


 白髪が、陽を反射する。


サナ「妾、聖女サナの名において宣言する」


 その瞬間。


 胸元の聖印が、強く光った。


 空気が、張り詰める。

 祈りの場に似た、重たい静寂。


サナ「この薬の販売を禁ず」


 光が、地面に紋様を描く。


サナ「以後、これを売ろうとする者には——

 神罰が下る」


薬師「……は?」


 半笑いで、薬師が瓶を掲げた。


薬師「脅しか? そんなもの——」


 次の瞬間。


 バチッと乾いた音。


薬師「——っ!?」


 薬師の腕を、見えない衝撃が弾いた。

 瓶が地面に落ち、砕け散る。


 薬師は、腕を押さえて蹲る。


薬師「な……何だ……今の……!」


サナ「警告じゃ」


 聖印の光は、まだ消えない。


サナ「次は、腕では済まぬ」


 群衆が、一斉に後ずさる。


コハル「……本物や」


ユメ「……売れ、ない……」


 私は、薬師を見下ろした。


アカネ「“効いているかどうか”の話じゃありません」


アカネ「もう、売れないんです」


 薬師は、歯噛みする。


薬師「……っ、くそ……!」


 露店の天幕が、虚しく揺れる。


サナ「薬は、本来、人を救うものじゃ」


 光が、ゆっくりと収束する。


サナ「欺きの道具に使うことを、神は許さぬ」


 聖印が消えた後も、

 その場に残ったのは、逆らえない事実だった。


 この街で、

 この薬は——もう売れない。

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