神罰
露店が並ぶ通りの外れ。
白布の天幕の下、薬師は自信満々に客を迎えていた。
薬師「さあさあ、飲めば分かる!
神の恵みを調合した奇跡の薬だ!」
その声に、足を止める人々。
コハル「……堂々としとるな」
ユメ「……」
私は、一歩前に出た。
アカネ「その薬、少し聞いてもいいですか?」
薬師「おや、お嬢さん。
顔色がいい。うちの薬、もう飲んだことが?」
アカネ「昨日、少量を」
薬師の目が、一瞬だけ光る。
薬師「ほう! どうでした?」
アカネ「……気分が高揚しました」
薬師「ほら見ろ! 効いただろう!」
周囲が、ざわめく。
薬師「元気になった! 痛みが消えた!
それが“効いた”証拠だ!」
アカネ「でも——」
私は、言葉を切る。
アカネ「治ってはいません」
薬師「何?」
アカネ「あなたの薬は、原因を取り除かない。
一時的に感覚を鈍らせるだけです」
薬師「言いがかりだ。
人は皆、楽になったと言っている」
アカネ「ええ。
“楽になった”だけです」
私は、周囲を見回す。
アカネ「その後、また同じ症状が出た人、いませんか?」
沈黙。
視線が、薬師から逸れる。
薬師「……それは、飲み足りないからだ」
アカネ「違います」
私は、静かに続ける。
アカネ「量を増やせば、反動も大きくなる。
内臓に負担がかかり、いずれ悪化する」
薬師「証拠は?」
そこで、サナが前に出た。
サナ「妾が、証拠じゃ」
空気が、変わる。
サナ「妾は聖女。
“治癒”と“高揚”の違いは、誰よりも知っておる」
薬師「……っ」
サナ「貴様の薬には、治癒の気配が一切ない」
薬師は、苦笑した。
薬師「……聖女様でも、万能ではあるまい。
人が楽になったと言っている。それで十分だ」
アカネ「十分じゃありません」
私は、はっきり言う。
アカネ「あなたは、不安を売っている」
ざわり、と人垣が揺れる。
アカネ「治らない現実を、
“今だけ忘れさせる液体”に変えて」
薬師「……金を払うのは、向こうだ」
コハル「最低やな」
ユメ「……」
人垣のざわめきが、波のように広がる中。
サナが一歩、前に出た。
サナ「——ここまでじゃ」
白髪が、陽を反射する。
サナ「妾、聖女サナの名において宣言する」
その瞬間。
胸元の聖印が、強く光った。
空気が、張り詰める。
祈りの場に似た、重たい静寂。
サナ「この薬の販売を禁ず」
光が、地面に紋様を描く。
サナ「以後、これを売ろうとする者には——
神罰が下る」
薬師「……は?」
半笑いで、薬師が瓶を掲げた。
薬師「脅しか? そんなもの——」
次の瞬間。
バチッと乾いた音。
薬師「——っ!?」
薬師の腕を、見えない衝撃が弾いた。
瓶が地面に落ち、砕け散る。
薬師は、腕を押さえて蹲る。
薬師「な……何だ……今の……!」
サナ「警告じゃ」
聖印の光は、まだ消えない。
サナ「次は、腕では済まぬ」
群衆が、一斉に後ずさる。
コハル「……本物や」
ユメ「……売れ、ない……」
私は、薬師を見下ろした。
アカネ「“効いているかどうか”の話じゃありません」
アカネ「もう、売れないんです」
薬師は、歯噛みする。
薬師「……っ、くそ……!」
露店の天幕が、虚しく揺れる。
サナ「薬は、本来、人を救うものじゃ」
光が、ゆっくりと収束する。
サナ「欺きの道具に使うことを、神は許さぬ」
聖印が消えた後も、
その場に残ったのは、逆らえない事実だった。
この街で、
この薬は——もう売れない。




