治験
小瓶を前に、全員が黙り込んでいた。
ゴードン「……理屈は分からぬが、結論は出ておらん」
サナ「精密な分析術具が無い以上、限界じゃな」
コハル「せやけど、街じゃ“効いた”言う人がおるんやろ?」
視線が、私に集まる。
アカネ「……少量なら、安全だと思います」
ユメ「え」
コハル「ちょ、待ちぃ」
サナ「妾は止めぬ。判断は貴女に任せる」
私は小皿に一滴、指先で舐めた。
——次の瞬間。
アカネ「……っ」
胸の奥が、かっと熱くなる。
視界がやけに鮮明で、身体が軽い。
アカネ「わ……すごい……!」
声が、いつもより高い。
アカネ「なんですかこれ! 世界、きらきらしてます!」
ぱっと立ち上がる。
アカネ「コハルさん! ユメさん! サナさん!
みんな、すっごく素敵です!」
コハル「……は?」
ユメ「……え?」
アカネ「えへへ……楽しい……」
ふらり、とコハルの袖を掴む。
アカネ「コハルさん、頼りになるし……
ユメさん、可愛いし……
サナさんは……綺麗で……尊いです……!」
サナ「――――っ」
サナが、完全に固まった。
コハル「ちょ、ちょい待ち!?
なにこの子、可愛すぎひん!?」
ユメ「か、顔……近い……!」
アカネは満面の笑みで首を傾げる。
アカネ「え? だって本当のことですよ?」
その場の空気が、耐え難い。
ゴードン「……見てられん」
コハル「悶絶するわ!!」
ユメ「ぼ、ぼく……心臓……!」
数分後。
熱が引くように、急に身体が重くなる。
アカネ「……あ」
私は、椅子に座り込んだ。
アカネ「……疲れました……」
さっきまでの高揚が嘘のように、どっと倦怠感。
アカネ「……なるほど」
コハル「なるほど、やない!」
ユメ「だ、大丈夫……?」
アカネ「はい……でも、分かりました」
私は、息を整えながら告げる。
アカネ「これ、治療じゃありません」
サナ「……一時的な興奮と高揚」
アカネ「はい。
気分が跳ね上がって、何でも出来る気になる。
でも、切れた後は……反動が来ます」
ゴードン「……だから翌日、具合が戻る」
アカネ「むしろ、続けると危険です」
小瓶を見る。
アカネ「これを“薬”として売るのは……悪質です」
サナが、私をじっと見つめる。
サナ「……それにしても」
アカネ「?」
サナ「効いておる間の貴女、反則じゃ」
コハル「せや。
あんなん街で撒かれたら、死人出るで」
ユメ「……でも……分かってよかった……」
笑いと安堵が混じる中、結論は一つだった。
この薬は、
人を救わない。錯覚を売っているだけ。




