冒険家の朝
冒険家の朝は、夜明けとともに始まる。
東の空が淡く染まり始めたころ、ツクヨミは庭に出ていた。静寂の中、メイスを振るう音だけが空気を切り裂く。彼女の動きは無駄がなく、まるで祈りの舞のように美しかった。
その後、礼拝室にて神へと祈りを捧げる。聖女に与えられた特性――それは、祈りによって経験値を得るという不思議な力。ツクヨミはその力を誰よりも理解していた。
「……昨日はレベル95だったのに、今は102。やっぱり、私の経験値の溜まり方はちょっと特別みたいですね。」
神の加護を受けし者として、彼女は静かに微笑んだ。
一方その頃、グリムンド王子も目を覚まし、庭へと姿を現した。ツクヨミの鍛錬に刺激されたのか、背中から忍び刀を抜き、構え、振る。続けて、腰のポーチから手裏剣を取り出し、近くの木に向かって投げる。
「ふむ、なかなか様になってきたな……」
ツクヨミはその様子を見守りながら、心の中で頷いた。
少年の心をくすぐる装備は、王子のやる気を引き出すには十分だったようだ。
鍛錬を終えたふたりは、井戸の水で軽く体を清め、朝食の時間を迎えた。
朝の食卓には、昨晩のうちに食堂で買っておいたパンに、野菜と肉を挟んだ即席のサンドイッチ。そして香り高い紅茶が並ぶ。
グリムンド王子はサンドイッチを頬張りながら、ちらちらとツクヨミの手元を見つめていた。どうやら、まだお腹が空いているらしい。
「……仕方ありませんね。」
ツクヨミは微笑みながら、ストレージからもう一つサンドイッチを取り出し、王子に手渡した。王子は嬉しそうにそれを受け取り、あっという間に平らげた。
「育ち盛りですものね。明日からは、食事量を倍にしましょう。」
食後、ふたりは今日の目的地――近くの平原へと向かう準備を始めた。レベル上げのための小さな冒険が、今日の予定だ。
その前に、昨日購入した家をストレージへと収納する。家全体がふっと光に包まれ、跡形もなく消えた。
「……また消えた……」
グリムンド王子は目を丸くして、その様子をじっと見つめていた。
「ふふ、驚きましたか?これは神様から授かった力です。」
ツクヨミは空を仰ぎ、そっと祈る。
「ニケ神よ、今日もこの力を授けてくださり、ありがとうございます。」
そして、ふたりは朝の光の中へと歩き出した。新たな冒険の始まりを告げる風が、そっと頬を撫でていた。




