グリムンド王子の買い物譚
ツクヨミはそっと王子に声をかけた。
「では、今日は魔物退治に出かける前に、武器屋や道具屋で必要なものを揃えましょうか?」
「うむ……だが、どういうものが必要なのか、よくわからぬ。ツクヨミの目で選んでくれぬか?」
王子の素直な頼みに、ツクヨミは微笑んだ。
「フフフ、良いですよ。お任せください。」
ふたりは並んで武器屋へと足を運んだ。店内には鋼の輝きが満ち、冒険者たちの熱気が漂っていた。
「まずは王子の装備ですね。こちらの“くさび帷子”などいかがでしょう?」
ツクヨミが手に取ったのは、漆黒の軽鎧。まるで忍びのような装いだ。
「お、これは……シノビが着る鎧だな。うん、軽くて動きやすい。重い甲冑を勧められたらどうしようかと思っていた。」
「……王子はどこで“シノビ”なんて言葉を覚えたのでしょうね?」
ツクヨミは心の中で首をかしげながらも、次の装備を選び始めた。
「では、武器は忍び刀にしましょうか?」
「それでいいぞ。」
そう言いながらも、王子はこっそりと仕込み杖を手に取った。
「こちらも買っておきましょう。中に刀が仕込まれているんですよ。」
少年のような好奇心を隠しきれない王子に、ツクヨミは微笑ましさを覚えた。
さらに、黒衣に手裏剣、クナイ、折り畳み式の弓矢、そして遊び心でヌンチャクや六節棍まで。王子の装備は、まるで忍びの宝箱のように充実していった。
ツクヨミ自身は、聖女らしく軽くて丈夫なメイスを手に取り、加護の宿る法衣を身にまとっていた。その防御力は、並の鎧をも凌ぐという。
支払いを済ませると、ツクヨミは手をかざし、神より授かった“ストレージ”へと装備を収めた。すると、目の前で武具の山がふっと消えた。
「な、なんだそれは!?物を……消したのか?それとも、また出せるのか?」
「これは“ストレージ”というスキルです。MPを消費せずに物を出し入れできるんですよ。でも、これは秘密にしておいてくださいね。」
「さすがは大聖女と呼ばれるだけのことはあるな……これはすごい。」
次にふたりは道具屋へ向かった。ツクヨミは回復薬と毒消し薬を、それぞれ百個ずつ大人買いした。
「お客さん、そんなに持てるんですか?いや、商売的にはありがたいんですが……」
「大丈夫です。大容量マジックバックを持っていますから。」
その言葉に、王子はまた白い目を向けた。
続いて、MPポーションも大量に購入。ツクヨミのMPは膨大で、そう簡単には尽きないが、王子のために備えておくのだ。
「余は、そんなに金を持っておらぬが……大丈夫なのか?」
「このくらいは大丈夫です。わたし、見た目によらずお金持ちなんですよ。後日、お父上様に必要経費として請求させていただきます。」
実際、ツクヨミのストレージには金貨が一万枚以上も眠っていた。いざとなれば王宮にツケを回せばいい。問題はない。
「そういえば、旅をするならテントがいるのではないか?」
「テントより、もっと良い方法があります。わたしにお任せください。」
そう言って、ふたりはその足で家を買いに向かった。
リビングに個室が五つ、キッチン、トイレ、お風呂、そして礼拝室まで備えた立派な家が売りに出されていた。手入れも行き届いており、ツクヨミは即決で購入。
寝具や家具、調理器具、さらには馬や馬車まで雑貨屋で揃え、すべてをストレージに収めていった。
王子はその様子を、呆れたような、感心したような顔で見つめていた。
夜になり、ふたりは街の食堂で夕食をとることにした。王子は庶民の郷土料理、オーク肉のソテーに舌鼓を打ち、大満足の様子だった。
「うむ、これは……うまいな!」
実はそれほど高価な料理ではなかったが、王子の舌にはぴったりだったようだ。
一日を終え、ふたりは新しく手に入れた家で休むことにした。ツクヨミは神に祈りを捧げ、王子には少しだけ座学を施した。
そして夜が更けるころ、ツクヨミはそっと灯りを落とし、静かに囁いた。
「おやすみなさい、王子。」
もちろん、部屋は別々である。




