ツクヨミの領地事情――自由なる聖女の選択
領地を持つ――それは、ひとつの責任であり、誇りでもある。
だが、ツクヨミの心は、まだこの世界のあちこちを巡り、見知らぬ景色と出会いたいという冒険心に満ちていた。
(……この国に根を下ろすのは、まだ早いかもしれませんね。)
王都の冒険者ギルドで、ツクヨミはギルドマスターに相談を持ちかけた。
「領地のことで、ちょっと……」
ギルドマスターは目を丸くして言った。
「えっ、ツクヨミ様がアスタリカ王国内に領地を?」
「え、どういう意味ですか?」
「王族が爵位や領地を与えるのは、囲い込みの一環なんです。つまり、ツクヨミ様をこの国に留めておきたいという意図があるのではと……」
(……なるほど、そういうことか。)
確かに、世界を巡る旅を夢見るツクヨミにとって、ひとつの国に縛られるのは本意ではない。
「でも、方法はありますよ。」
ギルドマスターは微笑んだ。
「信頼できる代官を立てて、領地の運営は任せる。ツクヨミ様は爵位だけを持ち、年始の挨拶や国家行事に顔を出す程度でよいのです。」
「……それ、いいですね。」
ツクヨミは即決した。
「じゃあ、場所の選定、代官の選定、住民の勧誘、全部まとめてギルドにお任せします。依頼料は――金貨300枚で。」
「えっ、300枚!?多すぎますよ!」
「余った分はギルドで使ってください。その代わり、仕事は迅速に、確実にお願いします。」
ギルドマスターは、まるで腰が折れそうなほど深くお辞儀をした。
「ありがとうございます!必ずや、ツクヨミ様にふさわしい領地をお作りいたします!」
こうして、ツクヨミの領地計画は、完全委任モードで動き出した。
「領主たるもの、君臨すれども統治せず。」
グリムンド王子に語ったその言葉を、実地で体現することに。




