秘匿されていた特殊スキル
宿屋の食堂を後にしたツクヨミは、夜の街を静かに歩いていた。月明かりが石畳を照らし、彼女の影を長く伸ばしている。心には寂しさと、ほんの少しの安堵が混ざっていた。
――ありがとう、みんな。
『龍の輝き』の一員として過ごした日々は、ツクヨミにとってかけがえのない宝物だった。だからこそ、別れの前に、どうしても伝えたい想いがあった。
彼女はそっと手を合わせ、心の中で祈る。
「ニケ神様、どうかお力をお貸しください。私の最後の願いを、叶えてください。」
ツクヨミには、誰にも話していなかった秘密があった。
それは、神より授かった特殊スキル『スキル譲渡』。
自らの基本スキルを、他者にコピーして与えることができるという、あまりにも強力すぎる力。
この力が国に知られれば、きっと彼女は自由を失う。
だが、今はもう関係ない。
別れの贈り物として、彼女は静かにその力を解き放った。
まずは、勇者アーサー。
剣技と魔法を操る魔法剣士だった彼に、ツクヨミは蘇生・回復・神聖魔法を譲渡した。
その瞬間、彼のクラスは変化し、聖剣士へと進化を遂げた。
次に、魔法使いミーア。
火・水・風・土の四属性を極めた彼女に、同じく蘇生・回復・神聖魔法を与えると、彼女の魂は新たな可能性を得た。
その名も賢者の卵。未来の大賢者としての道が、今、開かれた。
そして、剣士タニア。
剣技と防御に長けた彼女は、すでにガーディアンの資質を持っていた。
そこにツクヨミのスキルが加わり、彼女もまた聖剣士へと変貌を遂げた。
ツクヨミは、そっと微笑んだ。
「これで、もう大丈夫。私がいなくても、きっとみんななら乗り越えられる。」
彼女のスキルは、譲渡された者の中でLv1から育つ。すぐには気づかれないかもしれない。
けれど、いずれ彼らはその力に気づき、きっと活かしてくれるだろう。
ツクヨミは、最後にもう一度だけ、宿屋の灯りを振り返った。
そこには、かつての仲間たちの笑顔が、まだ残っているような気がした。
「さようなら、みんな。ありがとう。そして……行ってらっしゃい。」
夜風がそっと彼女の髪を揺らし、ツクヨミは静かに歩き出した。
新たな旅路へと――。




