南の砦へ――輜重隊の護衛と神の導き
王都の冒険者ギルドに、ただ挨拶に立ち寄っただけのはずだった。
だが、扉を開けた瞬間、ツクヨミは四方を屈強な職員たちに囲まれ、まるでお尋ね者のように受付へと連行された。
「ツクヨミさんに特別依頼が来ています!」
受付嬢の声は明るいが、その内容はなかなかに重い。
「南の砦へ物資を届けてほしいんです。盗賊団が出没していて、物資が奪われてしまうんです。命は取られないんですが……」
「……あの、前回の依頼を終えたばかりで、少し休みを……」
「緊急事態なんです!」
ツクヨミは天を仰ぎ、心の中でそっとつぶやいた。
(……これもニケ神の思し召しか。)
「分かりました。明日の朝までに準備を整えておいてください。私も同行します。」
翌朝、ギルド前の広場には、輜重隊の荷車15台、兵士200名、商人15名が集結していた。
「それじゃあ、出発――」
その言葉を合図に、ツクヨミは静かに手をかざした。
「テレポート――全員、南の砦へ。」
次の瞬間、全員が砦の前に転移していた。
「……え?」
隊長は固まった。兵士たちも商人たちも、何が起きたのか理解できず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
(移動開始=到着。……我ながら、便利すぎて怖いです。)
ツクヨミはその隙に、砦の教会へと向かい、静かに祈りを捧げた。
だが、砦の中は大混乱。物資の突如の到着に、怒声が飛び交っていた。
(……まあ、わたしには関係ない話です。)
砦の外に我が家を展開し、ひと息ついていると、隊長がやってきた。
「ツクヨミさん、さっきのあれは……あなたが?」
「いえ、あんなことができるのは……ニケ神くらいではないでしょうか?」
「なるほど、神の御業か……。じゃあ、今度は帰りもお願いできるか、神様に聞いてもらえますか?」
(……神様に“ちょっと聞いといて”って、軽いなあ。)
「託宣があればお伝えします。なんとなく、二日後にはお応えがある気がしますので、それまでに準備をお願いします。」
「了解した!」
その後、ツクヨミは教会の清掃を始めた。すると、兵士たちがぞろぞろと後ろについてきて、草むしりや水拭きを始めた。
「……自主的に?」
どうやら、交代で王都に戻る兵士たちが、自ら進んで手伝っているらしい。
祈りの時間になると、教会は兵士たちでいっぱいになった。皆、真剣な表情で祈りを捧げている。
(ニケ神様、これはお喜びでしょうね。)
その後、砦近くで負傷した兵士がいると聞き、ツクヨミは教会に連れてこさせた。回復魔法と浄化魔法で、傷はたちまち癒えた。
「教会の中なら、ホーリーバリアーで感染も防げます。体調の悪い方も、祈りを捧げてください。」
誰かが、軍人病を治そうと必死に祈っていたが……まあ、ニケ神は細かいことは気にしない。
軽い症状なら、祈っているうちに勝手に治ってしまう。それが、ホーリーバリアーの力だった。
実は、教会内で食料を保管すると腐敗しにくくなるという秘密がある。だが、それはまだ秘密にしておこう。
(そのうち気づかれるかもしれませんけど……)
ツクヨミはそっと笑い、再び祈りを捧げた。
(今日も、神の御心のままに。)




