新しいスマホには、知らない名前が最初からあった
✦『新しいスマホには、知らない名前が最初からあった』
………
それは、
ウイルスに
やられた話じゃない。
気づいたことで、
少しだけ
強くなった話だ。
………
★目次
1.鼻歌を歌う67歳の小説家
2.新しいスマホと、引っ越しの日
3.最初から、そこにあった名前
4.同じ名前をした、二つの顔
5.悪者はいない、でも盲点はある
6.静かに現れた偽広告
7.僕が気づいた、たった一つの違和感
8.その日から、少し変わった
9.笑いながら取る対策
10.50人に届く文章の重さ
11.あとがき ― 体験は、次の幸せになる
■1.鼻歌を歌う67歳の小説家
僕の近所に、
67歳のおじいちゃんがいる。
毎日、
スマホで小説を書いている。
小説投稿サイトに、
もう50本以上。
閲覧数は、
だいたい毎回50人前後。
増えもしないし、
減りもしない。
それでもおじいちゃんは、
鼻歌を歌いながら書く。
「まあのぅ、
読んでくれる若者がおるだけで
わしゃ、十分じゃ」
「読者はわしのな、
子供のようなもんじゃけぇ……
わしゃ、嬉しゅうて、嬉しゅうて」
■2.新しいスマホと、引っ越しの日
少し前、
おじいちゃんは
スマホを買い替えた。
理由は、
めちゃくちゃ簡単だ。
来年、
メモリーの半導体が
品不足になる。
それだけの理由だった。
古いスマホから、
新しいスマホへ。
家電量販店で、
店員さんが
丁寧に全部やってくれた。
データ移行。
初期設定。
アカウント登録。
おじいちゃんは、
ただ横で
「はいはい」と
うなずいていただけだ。
それは、
どこでもある
普通の光景だ。
■3.最初から、そこにあった名前
新しいスマホには、
最初から
いくつかのアプリが入っていた。
その中に、
聞いたことのある名前があった。
ノートン。
「警備会社みたいなもんじゃろ」
おじいちゃんは、
そう思った。
それは、
間違いじゃなかった。
■4.同じ名前をした、二つの顔
ただ、
あとになって分かった。
その名前には、
二つの顔があった。
・最初から入っていた
正規の「守る側」
・ネットの中で
突然現れる
そっくりな「騙す側」
名前は同じ。
色も、雰囲気も似ている。
新しいスマホに
慣れていない人ほど、
区別がつきにくい。
■5.悪者はいない、でも盲点はある
家電量販店の店員は、
悪くない。
スマホを作った
ソフト製造メーカーも、
悪くない。
通信を支える
キャリア会社も、
悪くない。
「困らないように」
「安全なように」
そう思って、
初期設定を整え、
安心できる仕組みを
最初から用意しているだけだ。
でも、
そこに一つ
盲点があった。
正規の安心が
最初からあると、
偽物はより本物に見えてしまう。
おじいちゃんの脳が、
錯覚を起こしていた……。
■6.静かに現れた偽広告
ある日、
おじいちゃんは
いつも通り
小説家になろうのアプリを開いた。
その時、
画面の下に
静かに現れた。
「あなたの端末は危険です」
「18個のウイルスが検出されました」
電話は鳴らない。
音もしない。
まるで、
最初から
そこにあったみたいに。
■7.僕が気づいた、たった一つの違和感
おじいちゃんは言った。
「新しいスマホにしたら、
こういう恐ろしい画面が
出るようになったんよ」
「これ、押していいの?」
その一言で、
僕は気づいた。
それは、
守る側の名前を使った騙す側のサイトだ。
■8.その日から、少し変わった
僕は言った。
「それは広告だよ」
「本物は、
こんな出方はしないよ」
おじいちゃんは、
少し考えて、笑った。
「なるほどのう」
「次からは、
一呼吸置くわ」
それ以来、
何か出るたびにニコニコしながら言う。
「これは、
本物かのう?」と。
■9.笑いながら取る対策
分からないものが出ても、
慌てない。
怒らない。
「まあ、
確認してからじゃな」
おじいちゃんはそう言って、
一つずつ消す。
「わしの大好きな
マーク・トウェインが
言っとった」
「私は人生で多くの恐ろしいことを経験してきた。
そのほとんどは、実際には起こらなかった」
あの日のおじいちゃんの体験は、
怖い思い出にはならなかった。
日常で使える知恵に、
変わった。
マーク・トウェインは、
それを証明してくれた。
■10.50人に届く文章の重さ
その夜も、
おじいちゃんは
小説を書いた。
閲覧数は、
やっぱり50人前後。
でも、
それでいい。
「わしは、1000人の読者を
満足させるつもりはない。」
「たった一人の若者を、
震わせたい。」
「その一人が、
わしの老後を生かすんじゃ。」
僕は思った。
「あれ?
どこかの誰かと同じセリフを、
おじいちゃんが
真似してる…」
誰かが、
時間を使って
読んでくれている。
それが、
おじいちゃんの幸せだ。
★あとがき ― 体験は、次の幸せになる
この話は、
ウイルスの話じゃない。
気づいた体験が、
その人の力になるという話だ。
怖い出来事も、
笑って越えられたら、
次の幸せの種になる。
「わしを殺せないウイルスは、
わしを幸せに導く」(笑)
67歳のおじいちゃんは、
今日も鼻歌を歌いながら、
スマホで文章を書いている。




