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五話 潜入、賢者の堂!

 朝陽が去ってから、僕は寝付けなかった。悪霊に(うな)されたとか、窓全開で寒かったとか、そんなやわなものじゃない……しっかり瞼の裏にアップロードされたパンツが僕を寝かせてくれなかったんだ。だけど、目覚めはいいんだよな、なんでだろう。


 しかし驚くことに、朝陽の言っていた通り病室の荒れようを見て、医師達が大慌てだったけど、「強盗に入られたんです」と言ったら本当に素直に受け入れていた。愚直にも程があるのでは?


 そして僕はその日に退院させられた。そう、させられたのだ。訳もわからず荷物をまとめ、制服に着替えさせられ、迅速に僕は病院の門の前に放り出された……。


 「……もっとあるだろっ! 診察結果とか何も聞かされてないぞ!! 脳挫傷で死んだらどうすんだよ! せめて退院おめでとうって言って!?」


 地団駄を踏んで病院に向かって吠えた。


 右手に目をやる。昨日拾った名刺を強く握っていたので、少し皺がよっている。


 「はあ、まさかと思うけど、病院側もぐるってこと? なんだかなぁ、激流に流されているような気がしてならないんだけど……」


 病院を見る……僕がいたであろう病室はすでにガラスの張り替えを行っている最中だった。あの病室で僕は……。足元から冷たい風が吹き抜ける。寒くなる前に移動しよう——。


 



 僕は名刺に記載されている住所に向かうことにした。朝陽が言うには、僕は霊が見えるようになってしまったらしい。正直言ってめちゃくちゃ困るし、ホラーは苦手だ。いちいち驚かされる何て、平穏を望む僕からしたら大迷惑極まる。

 

 昨日は朝陽に訊けなかったけど、霊を見えなくする方法とか知っているじゃないだろうか? 僕の一番の望みはそこ、退魔師とか言う如何にも胡散臭そうな仕事をしているんだ。僕みたいな奴、たくさん知っているだろう。


 この街は中枢中核都市に指定されるほどの市であり県内で最多の人口を誇る街ではあるが、栄えているのはそれこそ中心地だけで、今僕は人々の往来ひしめくメインストリートから外れた場所、昭和と平成を混在させたような、懐古趣味には堪らない路地裏にいる。


 地図アプリによれば、この路地を抜けた先に例の『賢者の堂』と言う探偵事務所? があるようだ。


 薄暗い路地を抜けた先には、まるで小型の要塞を想起させるコンクリートビルが建っていた。ビルの端々はカビなどで黒ずんでいて、年季のようなものを感じる。


 「……如何にも、怪しさむんむんだな。名刺には二階に事務所があるって書いてあるけど……このビル、人の気配しねぇ」


 「怪しさムンムンで、申し訳ありませんね」


 「どっひゃーーー!!!! びっく、びっくりしたぁ!! 何で君はいつも突然現れるんだよ!!」全く気配を感じずに突然僕の隣から朝陽が現れた。


 「性分でしょうか?」


 「いや、訊かれても困るよ。君は猫か何かなの?」朝陽は人差し指を口元に当てる。


 「猫派か犬派の話ですか?」


 「全然違うけど、ちなみにどっちなの?」


 「うぅ、悩みます。私はどちらの可愛さも尊重できる博愛主義者なのです。とりあえずモフモフとした毛並みがある生き物に順位はつけられません」両手を頬にあて悩む姿が、最早小動物のようで尊い。


 僕は自分の髪を触る。僕の癖毛はモフモフに入るだろうか。


 「じゃあ僕……」「論っ! 外ですっ!」言い終わる前に言い伏せられた。


 「出し抜けにも程があるよぉ」

 

 「ところで、本当に来たんですね。その名刺にも気づかないと思ってましたけど、節穴ではなかったようで安心しました」


 ふっ舐められたものだ「中々に軽んじているようだけど、僕の審美眼を侮っちゃいけない。見たい物であればその繊維の向こう側まで貫通する事ができるんだ」

 

 「繊維の、向こう側……?」朝陽はじとりとこちらを伺う。

 

 「ああ、繊維であれば、透けているも同然ってことさ。試しに、今日の下着の色を当ててあげるよ」 


 「はあっ!? やめて変態!!」


 いっけぇ! 当てずっぽう!!


 「アイボリーピンクだっ!?」


 朝陽はびくんと跳ね、股の辺りと、胸の辺りを手で押さえ、赤面全開といった表情……まさか? 朝陽は口を開く。


 「……本当、最低」


 うっひょーーやっりーー!! 今日から僕はFBI超能力捜査官だ!!



 「少年、あまり朝陽をいじめないでおくれ」


 どこからか僕達の談笑を遮る声がした。抑揚が少なく、落ち着いた中性的な女性の声。


 僕は辺りを見渡すが見当たらない。すると朝陽が「あっ先生。この人が昨日言っていた思春期を拗らせた"性"少年です」キンキンに冷えた横目で一瞥する朝陽。


 「多分青の字、違うよね? 怒ってる?」


 朝陽の視線は上を向いている。つられて僕も上を向く。

 

 いつの間にかコンクリートビルの二階の窓が開け放たれ、中から人が身を乗り出して煙草を吸って僕たちを見下ろしていた。逆光でシルエットしか分からなかったが、間違いないことが一つある。


 「……絶対巨乳だ(小声)」



 interlude————。

 

 

 

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