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水を酒に変える力を持って転生したらみんなおかしくなっちゃった  作者: キタビ
第二酒席 村の方々に酒を振舞ったら、反乱の狼煙が上がった
9/41

9 陽気な村と意地悪な騎士

 ――村が壊滅した。


 あの後、ビールを村人全員に振舞うことになったのだが、男達はたいそう酒を気に入り、それこそ浴びるように「もう一杯!」「もう一杯!」と酒をせがんだ。銀二も調子に乗って酒を造り続け、気付けば村の男達全員が酔いどれオヤジとなり、そこらで小便をしたり、路上で鼾をかいて眠ったり、喧嘩を始めるものもいたり、歌いだしたり踊ったり、陽気になったり、泣き上戸になったりと、酒の力が存分に影響を及ぼしていた。


「これだ」


 銀二は感動した。


「この光景が見たかった! まるでビアガーデンだ! まるで居酒屋だ!」


 銀二はその惨状を両腕いっぱいに広げて歓喜した。


 酔った銀二の倫理観はおかしくなっていたのである。

 

 ただ、子供達に酒は振舞わず、女性たちにはカクテル系の酒を振舞い、アルコが飲み過ぎないように注意してくれていたお陰で最悪の事態は免れていた。とはいえ、村中の大人達がへべれけになっている光景は、異常とも言えた。


「いやあこんなに楽しいのは久しぶりだ! いい! 酒はいいな! なあギンちゃん」

「村長、わかってもらえて嬉しいです。ほんとに! カンパイ!」

「カンパイ! ダハハハハァ」


 惨状を放置して、銀二は村長と、酒の強いアルコの父やその友人、アルコとテーブルを囲んでカンパイを繰り返した。人家の外に出されたテーブルには慎ましい料理が並び、ちょっとしたお祭り状態だ。

 水瓶から水をすくっては、みんなが求めるのは酒、酒、酒。

 多少の揉め事はあれど、笑顔と笑い声が絶えない光景に、村長は嬉しそうに微笑んでいた。


「みんながこんなに楽しそうなのは、ずいぶん久しぶりだよ」

「そいつはよかったです」

「なあギンちゃん、お前さん異世界で死んで、こっちへ来たって言ってたな」


 アルコの父、コールがジョッキを置いた。


「ええまあ、話した通りの塩梅でして」

「そら辛かったなあ」

「え?」

「お前にも、親や兄弟、友人がいただろ? それを突然、全部失っちまってよ、なあ」


 銀二は言葉を失くし、手に持っていたジョッキをテーブルに置いた。

 

 死んでしまったものは仕方がない。


 そんな風に割り切っていたつもりだったが、自分はずっとそのことを考えないようにしていたのかもしれないと、この時ふと思った。酒に頼って、忘れたふりをして、考えないようにして、現実から目を背けていたのかもしれない。

 銀二は携帯を取り出して、向こうの世界で撮った家族写真や、高校の友達、大学での飲み会の写真、居酒屋、バーで、名前も知らない人たちと写った姿を見て、胸があたたかくなるのを感じた。


「なんだそれ、向こうの世界の持ち物か?」

「ええまあ」


 カメラという物に「すげえ物があるな」と感動するだけで、それ以上の疑問を抱かない村の人たち。


 もう、向こうの世界には帰れない。


 家族とも、友人とも、知らない誰かとも、会うことはない。


 そう実感してから、銀二の目からぽろぽろと涙がこぼれた。

 それを見たアルコやコール、村長は、静かに酒を口に運んだ。


「ギンジ、元気出してね」アルコが言った。

「うん。ありがとう」


 銀二は拭っても拭っても溢れてくる涙に戸惑った。


 酒が入っているせいか、想いは言葉に変わり、口から溢れ出た。


 ああ、クソ。やっぱり――。


「親父と一緒に、酒を飲みたかったなあ。もっと、生きていたかったなあ」


 嗚咽交じりに本音を漏らす、銀二の後悔の涙に、村長やコールは心だけを寄り沿わせ、「もっと飲め」と酒を勧めた。銀二は注がれた水を酒に変え、ぽたぽたと涙が落ちた酒をぐっと飲み、深く息を吐いた。

 それを幾度か繰り返し、鼻を啜り、涙を拭い、「もう、大丈夫です」と息を整えた。


「まあなんだ。失っちまった物は取り返せねえだろうが、こっちでその分、楽しく生きてやりゃいい。死んじまったとはいえ、それは前の世界の話だ。お前はこうして生きてる。な?」

「コールの言うとおりだ。わしらがその手伝いをしよう、なんなら、この村で暮らすといい。一人くらい、なんとかできるさ」

 

 美味い酒を振舞ってもらった礼だ。


 そう言って、村人や村長は、銀二のいた世界の話をひとしきり訊いて、気持ちよくなった。

 やがて日が傾いて、夕陽が空を茜色に染めた。


「こっちの世界も、空の色は変わらないな」銀二は言った。

「じゃあ、この世界も、お前の世界も、どこかで繋がってるのかもしれないな」

「ですね」


 そうしてのどかな空気に浸っていると、村の男が血相を変えてやってきた。


「――村長、大変だ! ブランカの騎士団が」

「なに? この前来たばかりじゃないか!」

「ブランカの騎士団?」銀二は眉を顰めた。

「ほら、さっき話した」アルコが言った。

「ああ、意地悪な騎士団」銀二は手をぽんと打った。

「それで?」

「今、村の前で揉めてて! とにかく早く来てください!」


 報せに来た男は膝に手を当ててゲロゲロ吐くと、口を拭って村長を現場へと案内した。


「俺達も行こう」


 コールが立ち上がると、アルコもそれに続き、銀二も後を追った。

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