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水を酒に変える力を持って転生したらみんなおかしくなっちゃった  作者: キタビ
第七酒席 酒は楽しく呑むものだ
23/41

23 男とキスしてもハッピーエンド?

「ギンジ!」


 この世界に来て初めて聞いた人の声、アルコの元気一杯な声に、銀二は反射的に腕を高く伸ばした。

 その広げられた掌に、『魔王』の酒瓶が吸い込まれるように届いた。


「――死ねえ!」


 交差するように振り下ろされた二本の刀身を、銀二は酒瓶で受け止めた。

 この酒瓶は、女神様が気を利かせて壊れないようにしてくれた一品だ。『魔王』の文字が、ジャスティの瞳に写りこむ。銀二はジャスティの一撃を押し返すと、残り少ない魔王を二、三口含み、一気に酔いを深めた。


 さて問題――。


 地雷を踏まれて殺意に満ちた悪魔に乗っ取られたジャスティに、酒を飲ませる方法はあるでしょうか。


「一個しかねえんだよな。ったく、酔わなきゃやってられねえっての」


「ごちゃごちゃとうるさいんだよ! 今度こそその首を跳ね飛ばしてやる!」


 銀二は残った酒を一気に含むと、瓶を放り、パンと手を打った。


 かかってこいや!


 そう待ち構え、人生で最高に集中し、命を捨てる覚悟で目を見開いた。

 ジャスティが両腕を広げ、勢いをつけて刀身を首元に向けて振りぬく。

 その腕を銀二は掴み、渾身こんしんの力で押さえつけた。


「こ、この野郎! 離せ!」

「んんんん!(イヤだね) んんんんんん!(覚悟決めろ)」

「何言って――やめろ! やめろぉおお!」


 銀二はその唇をジャスティの唇に近づけた。必死に抵抗するジャスティの力に振り回されながらも、銀二は額に青筋を浮かべて必死に堪えた。腹に蹴りを入れられても酒を飲み込むのを我慢して、地面を転がり、マウントの取り合いが始まる。


「ギンジが上を取った! いけええええ!」アルコが叫ぶ。

「来るなあああああああっ―――!」

「むーん――!」


 銀二は全体重を乗せ、瞼を薄く閉じ、ジャスティの口に唇を重ね、酒を送り込んだ。

 傍から見ていたペギオやユリウス、キルギスは絶句し、アルコは「やったあ!」と喜び、ヴィヴィは不可解そうに現場を眺め、広場では未だにアジャが兵士達を追い掛け回して遊んでいた。

 注がれる酒、飲み込むジャスティ、吐き気を催す、ジャスティと銀二。

 ぷはぁっとジャスティの唇から口を離した銀二は、そのまま前のめりに吐いた。

 酒を注がれたジャスティもその場で嘔吐し、悪魔も吐き出された。


「うえええ貴様、マジ許さんぞお――うぅ、くらくらする」正気に戻ったジャスティが言った。

「あー、記憶を消してえ! 酔った勢いで男にキスするとか、マジでない!」


 二人が戻し続けるのを傍目に、吐き出された悪魔は乗っ取る先を失い、その場から逃げようと素早く地面を張った。駆け込める宿主はいない。広場へと逃げようとした道に結界を張られ、悪魔は完全に行き場を失くした。


「く、くそ!」

「はい残念でした」


 結界を張ったヴィヴィが悪魔を見下ろし、用意していた鳥かごに放り込んだ。


「っく、消すのか?! ボクを消すのか!?」籠の中で、悪魔はぐるぐると回った。

「あんたはねえ――」


 ヴィヴィが言いかける前に、銀二が「待った」をかけた。


「……あれ? 誰キミ」

「あんたこそ誰よ。見下ろさないでくれる?」

「坂倉銀二です」銀二は腰を屈めて、下からヴィヴィを見た。

「ヴィリアント、ヴィアンカ。みんなはヴィヴィって呼ぶわ」

「ちょっと、こいつとの話が終わってないんだけど、いいかな?」


 礼儀正しくお願いすると、ヴィヴィは鳥かごを銀二に渡した。


「……ほら」

「ありがとう」


 カゴに捕われた悪魔は、うっすら紫がかった黒いスライムのようだった。


「ボクを、消すのか。ボクは、消えるのか」少年のような声だった。

「まあ落ち着いて、さっきの答えを、聞いてない」

「……答え?」

「寂しかったんじゃねえかって話だ」


 銀二はカゴを地面に置き、その正面に腰を下ろした。


「ギンジ様、まさか悪魔に情けをかけるおつもりでは」

「情けじゃないよ。話が聞きたいだけだ」


 で、どうなの、と銀二が聞くと、悪魔は「わからない」と答えた。


「どうしてギンジは、悪魔が寂しがってるって思ったの?」アルコが訊いた。

「だってさ、言うこと聞かない奴、皆追放して、自分の言うこと聞いてくれる奴傍に置いて楽しくやってたんだろ? それってさ、形は違っても皆やってることじゃん。クラスのいじめっ子とかそんな感じだったんだよ。嫌われることやるくせに、独りになるのはイヤだから、力で自分に従う奴を傍に置いてさ。それでも、こんなこと続けてたら、いずれ独りになることはわかってたはずだ。いくら人の苦しむ姿を見るのが楽しいっつっても、独りになったら、何にも出来ない」

「それ自体が悪魔の習性なのです。用が済めば、別の宿主を探したはずです」


 ユリウスが言うと、そうかもしれない、と銀二は納得しつつ、頭を掻いた。


「なら、なんで王様だったんだ? 人の心の弱さにつけこむなら、いくらだっていたはずだ」


 銀二は返答を待ったが、悪魔の答えはたった一言、「……言えない」だった。


「言えるわけがない。そいつにも、悪魔のプライドというものがある」


 唾を吐き捨てたジャスティが、同情するような目を悪魔に向け、言った。


「それってどういうこと?」


 銀二が訊くと、ジャスティは不本意そうに口を開いた。


「殆どが、お前が言った通りだ。寂しさを知り、それを受け入れられないでいる。王に触れたからこそ、知った居心地のよさというのもあるのだろう。だがそいつは、表面をなぞることはできても、根っこから王になることはできなかった」

「なんでそんなことわかるの?」

「さっきまで、そいつの感情が私のなかで渦巻いていたからな」


 ジャスティは腕を組み、一時でも重なってしまった悪魔に同情する自分に戸惑った。

 悪魔はカゴの中をぐるぐる回ると、集まった視線に耐え切れなくなり、言った。


「……消せ。ここまで同情されて、ボクに生きている価値はない。悪魔の面汚しだ」

「消さないわよ。あんたは私のしもべになるの」ヴィヴィが言った。

「え?」

「知らないなら教えてあげる。低級の悪魔はね、私達魔法師の使い魔にちょうどいいのよ。それに、人の精神を乗っ取った低級悪魔は、人間の影響を受けやすい。あんたは小物だからわからないだろうけど、自分の中に生まれた感情に戸惑っているだけ。そんなだから低級悪魔は他の上級悪魔どもにバカにされるのよ。悪魔界の面汚しだってね」

「うるさい、知ったような口を利くな!」

「知ってるから言ってんのよ。あんたはね、誰でもいい。認めてもらいたかったのよ。だから王様に憑依した。そこからは、さっきのそこの男が言った通り。自分のなかに生まれた『人情』を理解できずに、パニックになった。実際、どんどん人が離れていって、あんたは焦っていたはずよ」

「そんなこと――」


 悪魔は否定しようとしたが、面倒くさくなったヴィヴィがカゴを持ち上げ、顔を近づけた。


「とにかく、あんたは負けて、私の道具になった。一生扱使ってあげるから覚悟なさい。ってことでいいわね、王様と、ハゲ」


 キルギスとユリウスは、仕方ありません、と渋々了承した。


「そんな!」

「ま、よかったな。消されるより、償う機会が与えられたって思えばいいだろ」


 銀二はよかったよかったと腕を組んで頷いた。


「お、お前のせいなんだぞ!」

「酔っ払いに責任を求めないでくれ」

「責任というなら、まずは私が責任を取らねばなるまい」


 キルギスが言うとおり、全てはそこから始まる。

 まずは、戦争を控えてしまっている国の再興、その後の始末をどうつけていくかを考えなければならない。


「問題は一つずつ解決する必要がある。すまないが、君たちは一度、戻ってくれるか? 追って、我々の方から顔を出す」


 キルギスが言うと、ひとまず問題は片付いたな、と銀二は立ち上がった。

 アルコとペギオにも礼を言って、「なんだか知らないけど、もう大丈夫そうだ」と笑いかけた。


「そうだ貴様、私に毒を盛ったこと、忘れてはいまいな?」

「毒? その毒のお陰で、悪魔から解放されたのに?」

「なんだと?」


 銀二は魔王の瓶を手に取ると、にっと笑って酒を勧めた。


「俺が毒なんて人に飲ませるわけないじゃないですか、とりあえず、一杯いっときますか?」


 ジャスティは怒った顔で、「断る」とそっぽを向いた。


 何にしても、一件落着――。


 そういきたいところだが、なかなか、先のことを思うと面倒でならない銀二であった。


 しかし、先のことを憂いていては、酒が美味くない。


「よーし、帰って皆で楽しく飲もう! 村の皆でぱーっとさ!」


 そう言った矢先、「ギンジ! 酒はどこだ! 王はどこだ! 殺してやる!」とアジャが壁をぶち破って姿を現した。


 面倒が増えること山の如し。


 それでもほどほどに、酒があれば楽しくやっていけるはずだと、銀二は思うのであった。




                              第一部 完

『水を酒に変える力を持って転生したらみんなおかしくなっちゃった』の第一部はここで完結になります。今後、お話がある程度まとまり次第、随時投稿していこうと思いますので、気に入ってくださった読者の皆様は、お付き合いください。

 また、ここまでお話に目を通してくださった方、評価をくださった方、感想をくださった方、皆様に感謝したいと思います。どうぞこれからも、よろしくお願いいたします。

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