表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水を酒に変える力を持って転生したらみんなおかしくなっちゃった  作者: キタビ
第六酒席 酒は人の本性を暴く
21/41

21 王についた悪魔

「お待ちください!」


 危険地帯から逃げ出した王を追ったユリウスが、城から出ようとしているその背中に声を投げた。

 護衛と共に振り向いた王、キルギスは、鬱陶しそうにユリウスを睨みつけると、恨めしそうに喉を鳴らした。


「ユリウス。この裏切り者め、貴様、あんなものをけしかけて、私を殺すつもりだったのか!」

「王の中に巣くう悪魔を殺す為に、一計を案じました。しかし、こうなってしまっては仕方がありませぬ。私の手で、止めさせていただく」


 そう言って、ユリウスは抱えていた剣を抜いた。


「最初からそうすればよかったのだ。私はお前が鬱陶しくて仕方なかったよ、いつもいつも、私のすることに口出ししよって、私は王だぞ! 逆らう者はいないのだ! 王に逆らうものなど民ではない! 貴様とはここでお別れだ!」


 その言葉で、護衛たちは剣を抜いた。

 直接的に、間接的にも命を下さない。やはりと、ユリウスの中で王の中に悪魔が巣くっていることが確信へ変わっていく。護衛の殿しんがりを務めていたジャスティが剣を抜き、「お前たちは手を出すな」と前に出ると、ユリウスはひるんだ。

 子供の頃、剣の稽古をつけて欲しいとせがまれて、いつも負ける役をユリウスは務めてきた。

 こんな形で剣を向けられるのが、辛くてたまらない。


「ユリウスさん、残念です」

「私もです。あなたの剣は、真っ直ぐだった」


 ユリウスはフードを脱ぐと、雷光をしゅぱっと反射する頭皮をめくらましに利用し、突進した。

 その突進力は彼が老体であることを忘れさせるが、ジャスティには十分見切れるものだった。突きを叩き落とし、返した剣で切り上げる。そうジャスティが剣の柄を握る手に力を込めた時、「あーらっとっとっと」と、脇の柱の陰から飛び出した銀二が絨毯に躓き、ジャスティを突き飛ばすように転んだ。

 突き飛ばされたジャスティは、「なにぃ!?」と意表をつかれ、そのまま壁に頭を打って気絶した。

 空ぶったユリウスの剣は、銀二の腰に提げていた水筒を一つ、貫いただけだった。


「……しまった、勢い余った」

「ギンジ様! どうしてあなたがここに」

「いやあ、王様を追いかけるハゲを見たら居ても立ってもいらなくって、応援しに来ましたよ」

「か、加勢ではなく?」

「そんなの俺に求めないでよ。俺はさ、喧嘩はできないんだよ……あ! 俺の酒が! ウソでしょ」

「あなたはいったい、なにをしに来たのですか?」


 ユリウスに訊かれ、銀二は大きく溜息を吐くと、ジャスティが落とした剣を手に取った。


「とにかくさ、ジャスティくんの介抱してあげてよ。俺はよくわかんないけど、二人が向かい合ってるの見て、なんとなく、二人は殺しあっちゃいけないってことはわかったよ。ま、俺は喧嘩はできないけど、王様を足止めするくらいはできると思うからさ」

「殺されますよ。彼等は、彼等の意思であなたを斬る」

「大丈夫さ。たくさん毒を用意してきたから」


 銀二は腰に釣った水筒をぽんと叩いた。

 それは、銀二にとってはただの酒であり、ユリウスにとっては水か何かで、護衛たちにとっては、ジャスティを苦しめた毒であった。銀二が毒と言えば、彼等はそれを警戒する。現に、「まさかあの袋の中身、隊長が苦しんだあの毒か?」と腰が引けている。


「おーし、じゃあ、行くぞ」


 銀二は剣を構えて走り出し、すぐに「重い! やっぱり邪魔ぁ!」と剣を捨てた。

 護衛は八人、酒を注いだ袋は四つ、じゅうぶんいけるはずだ。

 銀二は足をもつれさせて転びそうになると、危なっかしく護衛達の剣をかわし、口に酒を含んで衛兵の顔に吹きかけた。「っぎゃ! 目が!」と目を覆って「熱い! 熱い!」と叫ぶ衛兵を見て、二人が逃げ出した。


 あと五人――。


「ほーら、早く水で洗わないと目が溶けちゃうぞ?」

「っく、この悪魔め!」

「っほれ」


 振り上げられた剣に向って、銀二は袋を一つ投げた、それが斬られる瞬間、「もったいねえ」と銀二は漏らした。どの酒も、度数のきついスピリタスだ、目に入ったら熱いし、口に入っても、違和感しか抱かないだろう。極めつけは、口に含んだスピリタスと、ライターのあわせ技。口の前でライターを着火して、スピリタスを噴出すと、それは火を噴いているように見えた。


「こ、こいつ魔法使いか?」

「能ある鷹は爪を隠すってね、俺は色々できちゃうのさ」


 銀二の酒を使ったハッタリは、みるみる護衛兵達の戦意を削いだ。

 結果、銀二は最後の一本の酒を残して、護衛を退かせ、王を丸裸にした。

 王は護衛が落としていった剣を拾ったが、その手は震え、顔は怯えていた。


「な、何だお前は!」

「俺か? 俺は坂倉銀二、彼女もできず、就職もままならないまま飲酒運転の車に撥ねられて死んだ、かわいそうな酔っ払いだ!」


 銀二は言うと、勢いのままに王に飛び掛り、その口に毒を、酒を流し込んだ。


「飲め! 飲んで悪いものは全部吐いてしまえ!」

「ごっばあ、うえ! おええ! なんじゃこりゃあ――っ!」


 暴れたキルギスが銀二を蹴り飛ばした。

 そんな銀二の傍にユリウスが駆け寄り、「まさか王に、毒を飲ませたのですか?」と訊いた。


「……毒じゃない。ただの酒だよ」銀二は口を拭った。

「サケ?」

「酒にはさ、時に人間の本性を暴く力があるんだよ」


 そもそも酒が効くかどうかなんてわからないが、銀二は注意深くキルギスの様子を覗った。

 かなりの量を一気に飲ませた。すきっ腹なら酔いの回りも早いし、酔えば足ももつれるだろう。

 酒に強かったら何にもならないが、試してみる価値はある。


 というか、銀二にはこれしかできない。


「……っう」

「陛下!」


 駆け寄ろうとしたユリウスの腕を、銀二は掴んだ。

 具合が悪そうによろよろとたたらを踏むキルギスが、地面に手をついて嗚咽を漏らした。


「王様も下戸かな?」


 キルギスは何度も胃の中のものを戻しそうになるのを堪えた。

 しかし、過剰な反応だ。両手で口を覆って、出口を塞ぐように堪えている。


「貴様、何を飲ませたっ! っぐ、ダメだ――」


 諦めるようなセリフと共に、ついにキルギスは地面に嘔吐した。

 が、その口から吐き出されたのは、どす黒いゲル状の塊だった。


「うわっ、きっもちわる! え? 王様なに? 今、何吐いたの!?」


 想像してたものと違う物が出てきて、銀二は焦った。

 キルギスは一度空を仰ぎ見るように上体を起こすと、脱力して前のめりに倒れた。

 ユリウスと銀二は、キルギスに駆け寄った。

 ユリウスがその体を抱き起こし、「陛下! 陛下!」と呼びかけると、その瞼が静かに開き、「ユリウス」と優しく、弱弱しくその名を呼んだ。その瞳には、さっきまで潜んでいた暗さはなく、かつての民に愛されていた王のモノに戻っていた。その違いは、ユリウスにははっきりとわかったようだ。


「やはり、王は、我々の王は、我らの王だった」

「ユリウス、私は――」

「どうかそのまま、王は悪魔に憑かれていたのです。今、その悪魔が体から抜け落ちました。もう、大丈夫ですよ」

「……悪魔」


 さっき王の口から出たゲル状の物が悪魔だとしたら、それはどこに消えた?

 銀二は黒い塊が移動したであろう痕跡を目で追っていくと、口を拭うジャスティと目が合った。


「あれまあ」


 一難去ってまた一難、陛下は助かり、その原因が悪魔の仕業だということがわかったというのに、ジャスティは両手に剣を持ち、二刀流になっていた。

 地面に落ちた剣をちらっと見たが、拾っている暇はなさそうだ。


「殺されてたまるか――」ジャスティが口を開いた。


 殺されるくらいなら、殺してやる!


 低級悪魔がいくら人を殺せないと言っても、自分の命を守る為なら、殺しを厭うはずがない。


 銀二は、アジャは何やってんだ、と彼女の登場を心待ちにしたが、待っていても仕方がない。


「ギンジ様、先ほどの方法で、ジャスティ様を助けてもらえませんか」

「そうしたいとこだけど、手持ちのお酒はすっからかんなのよ」


 銀二は酔っ払いながらも、いい感じにアドレナリンが出ているせいか、逃げるという選択肢は頭から消えていた。かといって、素手で武器持った相手に、酒もなしじゃどうすることもできない。


「っくそ、ずっといい思いをしてたのに、なんで邪魔すんだよ!」

「ちょいちょい落ち着いて、話なら聞くから。ね? 一緒にお酒でも飲みながらゆっくり話そうよ」

「寄るな!」

「貴様、陛下のみならずジャスティ様まで、何が目的だ!」

「目的だと? そんなの、そいつ自ら望んだんだ! 重い責務から解き放たれたいってな! だからボクが叶えてやったんだろう!」

「王、自ら望んだ? そんなバカな――」


 ユリウスがキルギスを見ると、王は辛そうに瞼を閉じ、顔を伏せた。悪魔の言葉を肯定するその仕草に、ユリウスはウソだと悲痛に顔をゆがめた。


「どういうことなん?」


 銀二は頭を掻いた。


 ユリウスに抱きかかえられていたキルギスは、その肩を借りてふらっと立ち上がると、「私が悪いんだ。私の弱さが、彼を受け入れてしまった」と、語り出した。悪魔がその言葉を遮らなかったのは、王自身が自白すれば、自分が生き残る目があるかもしれないと踏んだからだろうが、事情を知ってしまうと、これがまた、誰が悪かったのか、わからなくなる、小さな物語がそこにはあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ