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水を酒に変える力を持って転生したらみんなおかしくなっちゃった  作者: キタビ
第五酒席 鬼に金棒、鬼殺し!
17/41

17 オニコロシとキリアジャ

「――王を殺す」


 そう言ったアジャの言葉には、恨みや憎しみに駆られているというより、強い使命感のようなものが感じられた。銀二はそんなアジャの言いなりにならざるをえず、後をついて行きながら事情を聞いた。


「ちょ、アジャさん、なんで王を殺すので!? こっから逃げるのではないので?」

「いいから黙ってついて来い! さもないと食っちまうよ。それから、アレを出せ!」


 アジャは銀二の体を子供のように持ち上げた。宙ぶらりんになった銀二は、冷や汗を流した。

 背中に鋭い爪が当たっている。


「あ、アレ、と仰いますと」

「熱い水だ」

「す、スピリタス? しかしあれ、水がないと作れませんのでね」


 ぐるる、とアジャはその言葉の意味を理解する為に時間をいくらか使うと、「いたぞ!」と駆けつけた警備兵達に気付いて舌を打った。構えたボウガンから矢が放たれると、銀二は地面に叩きつけられ、アジャは矢を素手で叩き落とし、一歩で距離を詰め、秒で蹴散らし、「水はどこだ!」と問い詰めた。「しょ、食糧庫に」と答える警備兵に、アジャはいくつか質問した。「あたしの鎧は、斧はどこにある、王はどこだ、ハゲはどこだ、腹が減った! お前は誰だあ! なぜ邪魔をする!」と支離滅裂なことを叫んだ。


 至近距離で詰められた警備兵は恐怖のあまり失禁して気絶した。


「っち、ボンクラがあ」


 乱暴に警備兵を放ったアジャは、地面に転がっていた銀二の首を鷲掴みにして歩き出した。


「……食糧庫ってドコだ」


 真剣な眼差しでそう口にしたアジャに、銀二はこの人バカなの? と悲しい気持ちになった。

 しかし、アジャの身体能力、戦闘能力は常人のそれをはるかに超えており、やってくる警備兵は相手にならなかった。それは一人で城を落とせるのではないかと思える程に強力で、なぜ捕まっていたのかもわからないが、一つ気付いたのは、彼女は敵であるはずの、この国の兵士を誰一人として殺していなかった。

 彼女の鬼のような戦闘能力と派手な戦いぶりからすれば、不殺というのは違和感しかなかった。実際、「っち、面倒だ」とことさら面倒そうにしているアジャの言葉には、「殺せないから面倒くさい」という意が含まれているように思えた。


 そうしているうちに、アジャは警備兵達を脅し、装備を取り返した。

 両腕を覆う巨大なガントレット、胸当て、腰鎧、獣のような爪が着いた脚甲、そして、身の丈程もある巨大な戦斧。完全装備になって、もはや無敵にしか見えない。


「次は食糧庫だ。いくぞギンジ、来い」

「へいっ」


 銀二は彼女の子分のように後に続いた。

 逆らったら死ぬ。

 何より、酒が飲みたい。

 このままでは素面になってしまう。

 そうして城内をうろうろしているうちに食糧庫に辿り着き、かめに溜められた水を発見した。


「酒だ――あぁ、まだ酒じゃなかった」


 興奮した銀二は瓶を覗きこみ、「先走っちゃった」とへらへら笑った。


「……サケ?」

「さっきアジャさんが飲んだ熱い水っすよ。俺は、水を酒に変える力があるんです」


 説明したが、アジャは理解していないようだった。だが、理解する必要はない。


「アジャサンじゃない。アジャだ、キリアジャだ」

「……アジャはどんな味が好きっすか?」

「早くしろ、その、サケが飲みたい。飲んだら、王を殺しに行くぞ」


 銀二は物騒なアジャの為に水を酒に変えたが、中身は変えた。

 スピリタスではなく、辛口の日本酒、鬼をも酔わすと言われる『鬼殺し』だ。

 平安時代、京都の大江山おおえやまに住みついた『酒呑童子しゅてんどうじ』という酒好きの鬼を退治する際に酒を飲ませ、酔っ払わせて退治したという逸話が由来になっている。鬼のように強いアジャにはぴったりだ――と銀二は彼女のイメージから酒を選んだ。


「どうぞ、『鬼殺し』っていう日本酒です。ちょい辛口ですが、美味いですよ」

「……オニコロシ」


 アジャは匂いを確かめると、瓶の縁を掴んで両手で持ち上げ、頭から浴びるように酒を食らった。ばしゃばしゃとこぼれた酒がもったいないが、鬼も驚く豪快な呑みっぷりで、一瓶をあっという間に飲み干した。そんなアジャは、「ぶはぁ」っと息を吐くと豪快にゲップをして、空になった瓶を抱き砕き、口を拭って牙を覗かせた。


「ガッハッハ! ウマい! 美味いぞギンジ、これは美味い! さっきのよりスキだぞ!」

「語彙力が破壊されるほど気に入ってもらえたようで、うれしいです?」

「ふぅ、もっと呑みたいが、楽しみは後にとっておくぞ。ギンジ、王を殺しに行くぞ」

「ちょっちょ、ちょっと待って、そもそも、なんで王を殺すなんて話になってるんで?」

「話してる暇はない。もう、待ちくたびれた」

「もう一杯どうです?」


 銀二が瓶の水を酒に変えると、アジャは大喜びで酒に手を伸ばした。

 楽しみは後にといいつつ、目の前にある楽しみを放ってはおけないようだ。

 その間に、銀二は棚から見つけた獣の皮で作った水筒をあるだけ集め、度数の強い酒に変えては水筒を満たし、ベルトに引っ掛けた。腰周りに沢山の酒を釣り、両手に持ち、最強の戦士になった気分になり、ご満悦な表情を浮かべた。


「で、アジャはなんで王を殺そうとしてるの?」

「ハゲに頼まれた」

「……ハゲ? ああ、そういやさっき、ハゲはどこだとか言ってたっすね」

「この国の王は、乗っ取られた。だから、殺す。そうしないと、国が滅ぶ」

「乗っ取られた?」


 銀二が訝しげに眉を顰めると、アジャは黙って酒瓶の中の酒を手で掬って舐めた。そっちに夢中で、話が進まない。飲ませすぎたか、と銀二が嘆息すると、その質問に答える声があった。


「――悪魔ですよ」


 その声に振り向くと、上がった息を整える、しゅぱっと輝くハゲ頭の白い装束を纏った老人がいた。


「あ、ハゲだ」アジャが言った。

「このハゲが、あのハゲ?」銀二は指差した。

「あたしを雇ったハゲだ」


 ハゲは額の汗を拭うと、困った表情で言った。


「キリアジャ様、計画と違いますぞ! なぜ先走ってしまったのですか!」

「っふ、酒を飲んだら、ぶっ飛んじまったのさ。こいつだ、こいつのせいだ。ギンジのせいだ」

「さりげなく俺のせいにしないでよぉ」


 銀二は困ったが、これでようやく事態を把握できる。

 もしも王殺しが内部の人間の計画であるなら、村を救う手立てもあるかもしれないと、希望を抱けた。

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