中編
※内閣保安庁 調査部 調査資料映像記録より────
「キャハッ☆ ゴブリンの子供みたいなの発見〜〜♡」
“さすがキララちゃ〜ん”
“つよいつよ〜い”
“すごいなぁ”
自称ダンジョン配信系美少女アイドル「キララ」
【門】及び【魔界】への不法侵入を確認。
その際、一般に【ゴブリン】と呼称される現地生物と遭遇した模様。
この個体に関しては、血のように赤い色の肌と小柄な体躯が特徴として挙げられ、恐らくは幼体であろうと推測される。
映像記録の中では、個体は彼女の手で捕獲され、同時に手足も拘束されたようである。
「キャハッ☆ 見て見てコイツ♡ 不細工でよっわ〜い♡♡」
“いいぞいいぞ〜”
“やっちゃえ〜”
“ぶっころせ〜”
“キララちゃん最高〜”
キララが携帯武器(主にサバイバルナイフ)を使用し、現地生物を一方的に攻撃(というより長時間に及ぶ拷問と評するのが妥当)遂には捕獲した【ゴブリン】の幼体を絶命させる。
「グオォオオオオオオッ!」
別の地点から、キララが捕獲した【ゴブリン】とは異なる別の現地生物のものと思われる咆哮を確認。
「え? なになに〜〜??」
“キララちゃん、なんかヤバいくない?”
“これ絶対ヤバいと思う”
“ヤバいヤバい、絶対ヤバい”
“キララちゃん超逃げて!”
“おい! なんだあれ!?”
別個体の現地生物が姿を現し、跳躍してキララの眼前に着地。一気に距離を詰める。
生物学的にあり得ないほどの高い運動能力。
何より、全身が血のような赤色をした、比較的大柄な個体。
その特殊な肌色の特徴から、キララに惨殺された小型の【ゴブリン】と何らかの接点があると見られ、有識者によれば親子、または兄弟ではないかとの分析結果。
「グルルルル…!」
明らかに憎しみをあらわにした形相で、新たに出現した【ゴブリン】がキララを凝視し、背中に携行した長い剣のようなものをゆっくりと引き抜く。
「そこの民間人! 下がりなさい!!」
不法侵入と行方不明者の捜索を兼任していた陸上自衛隊 特別区域派遣部隊、総勢30名が現着。
同時に89式5.56mm小銃による銃撃戦を開始。
「射撃目標、大型未確認生物! 安全装置解除解除! 総員構えェ! 撃てェ!!」
ズドドド……!
「グォアアアアアアッ?!」
陸自特区部隊の小銃一斉射により、新種の大型【ゴブリン】を現場から撤退させる事に成功。
同時に、捜索要請が出されていた民間人、自称アイドル キララの身柄を確保。
任務完了とし、部隊は現場を後にしたと報告されている。
それから凡そ一年八ヶ月が経過。
現在────
民法1ch「緊急速報です! 特別危険区域【魔界】を隔離していた通称【門】が、【魔界】から出現したと思われる未知の生物によって破壊されたとのことです!」
同3ch「現場の鈴木さん?」
「はい! こちらレポーターの鈴木です!」
「そちらの様子はどうでしょうか?」
「はい! 現場となっているお台場付近は異様な緊張感に包まれております! というのも……あ! ご覧ください! ほらカメラさん! 後ろ! ほら上! 上ですってば!!」
カメラマンがAH-64 アパッチ攻撃ヘリの12機編隊を捉える。
高速かつ低空で飛翔し、レポーターやカメラマンたちの上を瞬く間に通過。
同4ch「こちら首都高湾岸線の原田です! ただいま首都高は片側2車線が交通制限されたことで渋滞が続いておりまして、それよりも皆さん! 先程の映像はご覧になられましたでしょうか! ベイブリッジの直上を何機もの攻撃ヘリが通過して……はぁ?! おいおいおいおい! えぇ?! マジかよこれ?!」
「あ〜原田さん? レポートは正確にお願いします」
「ギャハハ! おいおいおい! マジか? マジなんかコレ?!」
10式戦車10両、16式機動戦闘車20両──
他、兵員輸送車両やバイク部隊が列を成し、封鎖されていた首都高湾岸線片側2車線を一気に通過していく様子がテレビカメラに収められる。
同6ch「はい、スタジオの谷口ヒロシです。国会決議で採決された自衛隊派遣による【門】及び【魔界】への調査活動がこれまで幾度となく実行されてきた訳ですが、どう思います?」
「度重なる失敗や増え続ける犠牲者の訃報を受け、【門】の内部や【魔界】への干渉を危険視する声が内外から強く上がっていたのは事実です……が、そういった声は全て無視され続けて来ました」
「やはり、憲法第9条を堅持する事で平和を守る姿勢を示すことが大事なのだと、改めて議論する必要性を感じますね」
「はい、その通りだと思います」
「以上、風をよむのコーナーでした」
同時刻SNS上「風なんか読んでないで空気読めや老害ども」
同7ch「いけピ○チュウ、100万ボルトだ!」
「ピ○チュウ!!」
同日、日本国首相、岸部文武
国会での質疑応答 映像資料
「約二年前、東京都江東区お台場に突如出現しました超自然的空洞……いわゆる【ダンジョン】と呼称される特別危険区域、すなわち【魔界】……つまり、別の次元に存在する【異世界】との連結点を、強行採決および超法規的措置として封鎖するに至りました、通称【門】と呼称される防護施設の建造。及び、その防衛は……日本という国家の平和と安全を維持するために、絶対に必要かつ不可欠な処置であったと、私個人としましても、そう強く認識しております。
(中略)
現地を調査した自衛官らの証言や専門家による分析……そしてそれらを統合した見知から鑑みて、【魔界】には我々と同等レベルの科学技術を有した現地生物が存在しており、加えてその現地生物の多くが……戦闘を幾度も経験し、絶命することなく生き延びた場合、非常に高い戦闘力を持つに至る可能性があるとの調査結果が報告されております」
野党議員党首、木玉雄次郎の質問。
「総理の答弁の中に“【魔界】の科学技術が我々と同等のレベルにある”との発言がありましたが、一体なにを根拠にそのような発言をされたのでしょうか? 是非お答え下さい」
首相、岸部文武の返答。
「先の発言の根拠としまして、当然その証拠となるものが幾つかあるのですが……中でも「スマートフォン」と同様の携帯通信端末の使用が挙げられます」
野党党首、木玉雄次郎質問。
「その携帯通信端末なるものを、【魔界】の現地生物たちが一体どのように使用していたと言うのですか?」
首相、岸部の返答。
「調査隊の報告によれば……その携帯端末を使って自身の活動を記録したり、あるいはそれを数万単位の相手にリアルタイムで配信していた可能性が高いとの検査報告を受けております」
同日、江東区 有明──
ドォン……!
同5ch「爆発です! たった今、大きな爆発音が聞こえました!」
有明駅に黒煙と炎が上がる。
「え……? あれは何ですか?」
「どうしました? スタジオの木下さん??」
「カメラさん! そのままズームで東京ビックサイトの上の方にカメラ、もう一度寄せてもらえますか? 今、何か写っていたように見えました!」
スタジオの人気キャスターに言われるまま、現場のカメラマンが東京ビックサイトの上部にテレビカメラをズームさせる。
すると【ゴブリン】……いや、多くの人たちがイメージを同じくする【ゴブリン】とは到底かけ離れた異様な見た目と雰囲気を持つ、赤 青 黄の肌色を持つ三体の異常個体……その姿がハッキリと全国に映し出された。
※匿名を条件に取材に応じた自称「専門家」の博士の証言と、フリージャーナリストとの会話。
「我々が【ゴブリン】と呼んでおる現地生物の姿な……ワシが思うにあれは、単に「進化の過程にある戦闘生物の初期形態」に過ぎんと睨んでおる。事実、ヤツらは戦いを通じて加速度的に進化し続けており、近いうちに我々人類とは比較にならぬほどの高い戦闘力を持つ種族になる可能性がある。きっと近い将来、とんでもない脅威となって甚大な被害を出すことになるじゃろう」
「それでその……【ゴブリン】たちが戦闘で進化しているのだと仮定してですよ? そいつら最終的に、一体どれほどの強さを持つようになると博士は考えてるんですか?」
「はっ! 知るものかよ! じゃが……そういえばつい最近聞いた話では、陸自の突撃銃が大して効かなくなったとか言っておらなんだか?」
全国同時放送『日本政府から緊急事態宣言が発令されました』
1ch「東京江東区お台場に設置されていた【門】より出現した三体の強力な【魔物】に対し、日本国政府は内閣総理大臣、及び防衛大臣、統合幕僚長らを始めとする関係各者の協議により、すでに展開済みの陸・海・空、全部隊に【全兵装の無制限使用許可】を発令した模様です」
3ch「お台場を中心とした半径10km圏内を自衛隊特区部隊の戦闘区域と指定し、以降は事態の沈静化が認められるまで特別危険区域に指定されます」
4ch「当該区域の皆さんは至急避難するよう協力をお願いします。また関東にお住まいで該当区域外におられら方も、不要不急の外出以外は安全のため、可能な限り屋内での待機を──」
5ch「自衛隊が武器使用を全面的に許可されるという異常事態。皆さんはどうお考えですか? やはりここは日本が誇る憲法第9条、平和憲法の大切さを……たとえ相手が怪物であろうと、訴えていくことが大事ではないかと思いますが、いかがでしょうか?」
SNS「馬鹿なんじゃねぇの? あの老害」
7ch「トランス○ォーマー!」
陸上自衛隊 特区作戦統合本部 危機管理センター
作戦資料の配布、及び情報の共有
「これが本作戦における標的のデータとなります」
「本作戦の標的は この三体の【ゴブリン】だが、特徴が通常のものと著しく異なるため、それぞれを別個体として認識、明確に区別して呼称するものとする」
【オーガ】赤色の個体。全高約2,5m 、推定重量 約200Kg 。主に高速移動による攻撃を得意とする。
【シャーマン】青色の個体。全高約2m、推定重量 約170kg。特殊な化学反応を励起し、それを自在に操る能力を持つ。
【トロール】黄色の個体。全高約3m、推定重量 約400kg。強靭な肉体を持ち、脅威的な耐性と剛力を発揮する。
作戦決行直前に伝達された音声データの一部を抜粋
統合幕僚長 訓示──
「──事前に通達があったように、今作戦における武器使用無制限許可の発布は時間の問題だと推測される。言うまでもなく、我が国における国内での全武装の無制限使用に前例はなく、未曾有の事態がもたらされる可能性が非常に高いであろうと考えられる。しかし、陸海空を問わず、自衛官である諸君らには、我が国の安全が著しく脅かされている今日、まさに今この時。常日頃からの訓練によって培われてきた成果の全てを遺憾なく発揮して貰いたいと強く思うところである。我が国の未来は、諸君らの活躍に懸かっている。未知なる脅威が、諸君らの手で速やかに排除されることを願う。以上!」