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前編

戦闘を終え、その残火が点々とくすぶるダンジョンの空洞の中。

 俺はその火を種に焚火を起こし、それを眺めながら、これまでの出来事に思いを馳せていた。


「ここまで……本当に長かったな、コウガ」


 共にダンジョンを攻略してきた仲間であり、パーティで唯一の魔法使いでもあるフウガが俺の横に腰掛けながらつぶやいた。

 同じく、俺たちダンジョン探索のパーティメンバーの中で一番の怪力を持つモウガが続く。


「あの頃から思えばよォ、何もかも信じらんねぇぜ」


“まったくだな!”

“ホンマそれ”

“同意”

“お前らはワシが育てた”

“感謝しろよオマエら”


 この配信を観てくれてる同接のコメントが、手にしてるパネルを一気に埋め尽くしていく。


「はは、そうだな……確かにそうだ」


 最初──本当に最初も最初。


 俺たち3人がダンジョンの探索とその配信を同時に始めることを決意して、一体どれくらいの月日が流れたんだったか。

 初期装備の貧相な小剣ナイフ手盾バックラーを手に、ビクビクしながら慣れない配信もしつつ、忌まわしいこのダンジョンへと足を踏み入れた、あの日から──


 色んな魔物を相手に戦い「もうダメだ」と死を覚悟するような闘いを何度もくり返し、その全てにどうにか勝ってこれたけど……実を言うと、何度も心が折れて、挫けそうになった。

 けれど、その度に仲間達コイツらと手をとり合い、みっともなく泣いてボロボロと涙を流しながらも立ち上がり、そして、互いに少しずつ強くなっていることを実感し合いながら……ここまで一歩一歩、着実に進み続けてきたんだ。


 そして今、俺たちの目の前にはダンジョンの終着点──


 空洞の出口を固く封じ込め、まるで「何人なんぴとも通さぬ」と言わんばかりに立ちはだかる、巨大な人工の構造物……!


 通称、【門】(ゲート)


 そう、俺たちがどんな苦労も苦痛もいとわず、ただひたすら前に進み続けてきたのは、まさにこの【ゲート】を破壊するためなんだ。


 俺たちはこの【門】(ゲート)を破壊し、そして【魔界】へと足を踏み込む。


 ある日突然、俺たちの世界に現れて、破壊と殺戮の限りを尽くしやがった……あの忌まわしい【魔物】ども。

 ヤツらを、俺がこの手で一匹残らず皆殺しにし「あの時の借り」を必ず返してやる……!


 だから────


「おいコウガ、殺気立ってるぞ顔が」


 フウガが俺の肩をポンと叩きながら「あまり気負うな」と注意してきた。


「そうだぜコウガ、入れ込まずにリラックスだ! なんせ俺たち全員ステータスの攻撃系パラメータがS級を超えちまってんだからよ? この先どんな敵が出てきたって、全然負ける要素なんかねぇっての!!」


「ガハハ!」と高笑いしながら、肩に大斧を抱えたモウガが魔物の足首を掴んでズルズルと引きずり、俺の足元にそいつをドサリと投げつけた。

 さっきの戦闘で皆殺しにした敵の群れの中でも一番大柄な魔物の死体を。

 

「さすがだなモウガ。俺たちパーティの中でも一番の怪力なだけはある」


「まーな! とにかく腹減ってんだよ! ここらで腹ごしらえしようぜ!!」

「そうだな。腹が減っていては、いざという時に実力が出せず困ったことになる」


「……ったく、お前ら」


“そうだそうだ”

“これを見に来てんだよ”

“はよ作りやがって下さい”

“糞人生ワイの数少ない生き甲斐”

“ワイ全裸待機”

“これからコウガくんが料理作っちゃうぞ〜!!”


「はいはい、分かった分かった。料理すりゃ良いんだろ」


 仲間とコメントに後押しされるまま、俺は苦笑しつつ料理を始める。

 そういやすっかり忘れてたが、実は俺たち……最初の頃はダンジョン飯系の配信をしてたんだよな。


「覚えてるか? 最初の頃の配信をよ」

「へへ、忘れるもんかよ。あの頃はホント色々酷かったよなぁ、ホント色々」

「同接が……良くてせいぜい2とか3だったな。懐かしい」


 そうだ、そうだった。


 言い出したのは誰だったか「少しくらいは稼ぎの足しになるかもだし、ダメもとでやってみよう」と、軽い気持ちで始めたダンジョン配信。

 最初の頃は本当に閑散としていて、正直(これやる意味あるのか?)とか思ったりもしていたけど、それが今やどうだ。


 俺たちのチャンネルに登録してる登録者数はすでに百万人以上に達し、同接は常に数万人いるような状態だ。

 

 正直、桁が凄すぎて実感が湧かねえ。

 

 ま、色んな人たちに応援してもらえるってのは悪い気はしないけどよ。

 事実、これまで俺たちが何度も挫けそうになった時に心が折れなかったのも、配信中に貰った沢山のコメント……いわば、多くの人たちが俺たちのことを親身になって応援してくれたからだってのは、理由としてかなり大きかったのは事実だ。


 そんなことを思いながら「ふふっ」と笑みを浮かべつつ料理をせっせと続ける。

 

 さっきモウガが持ってきた大柄な人型の魔物を、まずはナタでドカドカとぶった斬るワケだ。この手の魔物の場合は……まあベタだが、まずは首や手足の付け根あたりからバッサリと切り落として、その後は細かくザク切りって感じだな。

 そして腹にナイフを差し込んで一気に、そして大胆に切り開き、内臓を思いっきり「ズルリ」と引きずり出してやるんだ。


“おお〜!”

“これだ!”

“待ってました!”

“これが見たかった!”


「おお〜! コウガお前、ホント手際いいな」

「まーな。そもそも俺たちの配信って最初の頃料理(こっち)がメインだったろ」

「……そーだっけ?」

「おまッ、何が忘れてねぇだ! キレイさっぱり忘れてんじゃねえか!!」

「いや、実はな……かなり前から私も、我々の配信の売りが実は料理の美味さとかではなく、解体のグロさというか……“え? ガチにそんなの食う気なの?”みたいな危うさなんではないかと思ってたんだ」


「はぁ? ウソだろフウガお前?!」


「「ははは」」


“ウケるw”

“今気づいたのかよ”

“ワロタ”

“草w”

“ホント好きよオマエラ”


 そうこうしている間に、簡単だが味わいのあるスープが出来た。

 ぶっちゃけ、小汚い鉄鍋にザク切りにした魔物の死骸をぶちこんで煮込んだだけのシロモノだから、正直見た目はかなりアレだが…… とにかく、具だくさんで素材の味が活きてる感じの良い出来栄えになった。

 

“飯テロ乙”

“美味そう”

“食いたい”


「どうだ、羨ましいだろ視聴者の皆さんよォ!」

「かぁ〜! 美味ぇ!! 見た目はかなりアレだけどな!!」

「今さら見た目なんか気にすんな!」

「うむ、沁みるな」

「そうそう! そういう感じの感想以外いらん!」

「見た目はアレだが」

「おいいィ?!」


“プギャーwww”

“ウケ過ぎるwww”

“大草原ですわwww”


 頼れる仲間たちと共に、時に泣き、笑い、戦い続け、そして多くの人たちに見守られながら、俺は「ある目的を成し遂げるため」に、どうにかここまで辿り着けた。


 今、俺たちの前に立ちはだかる【門】(ゲート)

 更に、その先に広がっているという【魔界】

 

 そして──


「この先に、例の【彼女】がいるワケだな……!」

「ああ、そうだ」


 俺と同じく、問いかけてきたフウガも【門】を見上げながらつぶやく。


「コウガ、お前がずっと探し続け……そして追いかけ続けてきた、あの【アイドル】が──」


 頷きながら、俺は【彼女】のことを思い出す。


 運命の「あの日」、チラっと一目見ただけだったが、今でも【彼女】の姿が、俺のこの目に鮮明に焼きついていて、とても忘れることなんてできない──!


「そうさ、必ず俺が見つけ出す。【彼女】はきっと……いや、間違いなく、あの【門】(ゲート)の向こう側にいるはずなんだ」


「ああ、きっとそうだな」

「大丈夫だ、絶対見つかる」


 そう、俺が……俺たちが、今まで命を懸けて必死に戦い、この【門】(ゲート)を目指してきたのは、ひとえにあの日見た【彼女】と再会するためだ。


 ダンジョン内をくまなく探して見つからなかった以上、きっと【彼女】は【門】の向こう側にいるに違いない。

 いや、この世界のどこにいようとも、俺が必ず見つけ出してやる──!


“頑張れよコウガ”

“応援してるぜ!”

“大丈夫だ、自分を信じろ”

“お前なら必ず見つけ出せる”


「ああ。ありがとな、お前ら」


 なんて言うか、ものすごく満ち足りた気分だ。


 俺の個人的な理由に付き合ってくれた、バカで信頼できる心強い仲間に、今までずっと応援してくれた沢山の人たち。

【門】(ゲート)を通過した後に、一体どんな激しい試練が待っているのかはさっぱり分かりはしないが、それでも俺は……どんな結果になろうとも、絶対に後悔なんかしないと断言できる。


 なぜなら──



 【ビーッ! ビーッ! ビーッ!】



 突然、やたらとうるさい警戒音が鳴り響いた。


「な、なんだ!?」

「おい見ろ!」


 モウガが指差す方向。


 ダンジョンの終着を全て覆う【門】(ゲート)、その両脇にある小さな出入り口らしき箇所から、先の戦闘で倒したのと同等……いや、それ以上の数の魔物たち、およそ100体以上がワラワラと姿を現したのだった。


「またかよ……!」

「くるぞ!」

「見りゃ分かんだよンなことァ!!」

 

 焚き火を蹴散らし、俺たちはそれぞれの武器を構えて待ち構える。


【門】(ゲート)から現れる【魔物】(ヤツら)は、いつも揃いもそろって同じような服装をしていやがって、そして気味が悪いほどにいつも整然と並び、俺たちを遠くから規則正しく攻撃する戦術をってくるんだ。


 主な攻撃は炎系の魔法。


 ヤツらは、その手に持った黒い鉄製の魔法の杖のようなものから、とんでもなく速く強力な炎の矢のような術を無数に打ち出し、それを一斉に連続して発射してくる。

 そして、これまでにこの魔法で多くの人たちが亡き者にされてきたのもまた事実だ。


 だが──


「今さらンなもんが効くと思ってんのか雑魚どもがァ!」


 デカい戦斧を振り上げながら、モウガが火矢の魔法をものともせずに突っ込む!


「真の火炎魔法、その目に焼き付けるがいい……!」


 魔法詠唱に入ったフウガの戦杖に、目に見えるほどの強力な魔力が凝縮され、まばゆい輝きを放ち始める。


「へっ! 俺も負けちゃいられねぇな!!」


 俺は背負ったロングブレードを鞘から抜いて構えながら【魔物】どもに向けて指差しながら叫ぶ。


「おい糞ゴミども! この俺のスピードについて来られるか!!」


【魔物】たちが俺に魔法の杖を一斉に構える。

 だが、遅い──!


 フウガの手に極大の炎の球が形成、【魔物】どもに向け発射され、大爆発を起こす!


 爆発で粉微塵になった以外のヤツらが爆風で四方八方に吹き飛ばされ、しかし、それでもヨロヨロと立ち上がりながら魔法の杖で俺たちを攻撃しようと構える。


 そこへ──


「オラァアアア!!!」


 モウガの馬鹿デカい斧が爆発を伴う土砂を巻き上げて【魔物】どもを蹴散らし、それに巻き込まれて吹き飛ばされたヤツらのバラバラ死体がボトボトと音を立てて落ちてくる。


「よっしゃ行くぜェ!!」


 狼狽する残りの【魔物】どもの合い間を、俺がブレードで斬り裂きながら縫うように駆け巡る。

 ヤツらが見る間にバラバラの細切れ死体になっていき、ヤツら自慢の魔法の連続火矢を放ついとまなんか一切与えてやらねぇ。


 魔法が使えるフウガが大魔法を放って敵の陣形を崩し、力自慢のモウガが大斧で突入、撹乱する。そしてこの俺がスピードにものを言わせて敵どもを切り裂き、敵が混乱している内に一気に皆殺しにする。


 これが、これこそが、長い探索の中で俺たちが協力し合うことで編み出された「究極のダンジョン必勝スタイル」ってワケだ!





「見たかオラァ!」


 猛るモウガ。

 ふう、と一息つくフウガ。


 見渡せば、俺たちの周囲にはバラバラになった【魔物】の死骸がとっ散らかってる状態になって落ち着いていた。


「終わったな……!」


「「ああ」」


“ヒュー!”

“さすがは超S級探索者だぜ!”

“カッケェ”

“無敵”

“抱いて”


 手の中のパネルを眺めながら「ふっ」と微笑む。

 そして──


「いよいよだな!」

「ああ、そうだな……!」

「よっしゃ! 破壊すんぞゴルァ!!」


 俺たち三人は遂に、この忌々しい【門】(ゲート)を破壊して突破し、更にその先へと続く【魔界】へと踏み込む。


 だが、決して何も恐れたりはしない。

 たとえ、どんな強力な敵が待ち構えていたとしても。


 そして、あの日見た【彼女】を見つけ出し、俺が、必ずこの手で────


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