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『違う!誰が人面瘡だと!?ふざけんなよ!このクソガキ!』


人面瘡は表情豊かなようで、眦を吊り上げて怒鳴り声を上げた。

怖いはずなのに、私にはなぜかこの人面瘡が怖くない。


「おい、やめろ」


ジョンは苛ついた様子で人面瘡を止める。なんだか慣れた様子のようだ。


『うるせぇ!俺のような美しい顔を見て人面瘡だなんて酷すぎるだろうが!』


「ご、ごめんなさい?」


尚も怒り続ける人面瘡に私はとりあえず謝った。


「謝らなくていい」


「この、方はなんと呼べばいいの?」


「それは……」


ジョンは、名前を聞こうとすると困った表情をした。

彼は普段はなんと呼んでいるのだろう?


『俺は悪魔だよ。悪魔って呼べばいい』


人面瘡は、自分のことを「悪魔」と名乗った。

確かに見た目はそれに見える。

ジョンも偽名なので、この「悪魔」も同じように偽名なのだろう。


「悪魔さん。なんで話せるの?」


私は名前の事を軽く流して、一番気になっていることを問いかけた。


「え、そっち?」


ジョンは何にもぶつかっていないのに、なぜかのけぞった。


『秘密。お前さ、コイツの子供産んでくれよ』


悪魔はそれには答えず。突然突拍子もないことを言い出した。


「は?」


子供という考えもしなかったワードを聞いて私は唖然としてしまう。

何を言っているのだろう。この悪魔は……。

ジョンだって選ぶ権利はあるはずだ。私なんかを選ぶはずがない。


『子孫を残さないと、俺はこのまま消滅しちまうんだよ。コイツの子孫の身体を依代にしてるから』


悪魔は私たちが黙っていることをいいことに、好き勝手に言い出す。

それに反応したのはジョンだった。


「いい加減にしろ!」


ジョンは顔を真っ赤にさせて、自分の胸もとに怒鳴り声を上げている。

客観的に見るとなんだか、情けない光景だ。


『お前さ、俺見てドン引きしない奴なんてそうそういねぇぞ。チャンスじゃねぇか。子供サクッと作ってさ、そうしたら俺も安泰だしな』


悪魔は、尚も私を気に入った理由をつらつらと述べた。

確かに、胸元の人面瘡は見たら引く人もいるかもしれない。けれど、私の顔と比べても勝手に喋るくらいで可愛い物だとは思うけれど。


「私みたいな醜い女の子供なんて可哀想だわ」


私のような醜い女を選ぶなんて酔狂だ。人面瘡くらい受け入れてくれる人はたくさんいると思う。


『こいつ、なんか変なもん食べたのか?』


「やめろ」


悪魔は引き攣った顔でジョンに問いかけていた。


『まあ、そう言って育てるのが一番良かったのかもしれないがな』


「そうだな、この外見は、確かに」


二人は勝手に話し合って、勝手に納得してため息を吐いた。

その様子は息がぴったりで、長年連れ添った相手のように見えた。


それから、ジョンと悪魔との奇妙な交流が始まった。


『お前、なんでこんな辺鄙な田舎にいるの?』


悪魔は、私の事が気になるのかそんなことを聞いて来た。


「生まれた時、私は不吉で醜くて、だから、両親に嫌われたんですよ」


私が簡単な説明をすると、悪魔は苦虫を噛み潰したような顔をした。

本当に表情豊かだ。


「生まれたばかりの顔を見て勝手に決めたのか?」


ジョンも同様で明らかに苛立った口調で問いかけて来た。


「そうですね。私が醜いから邪悪な心を持ち家門を駄目にすると思ったようです」


「なんて身勝手な……」


ジョンが怒ってくれるとなぜか嬉しかった。

長年「いらないもの」として扱われて来たせいか、それに慣れきっていて、親の身勝手さに怒りが湧いては来なくなっていたのだ。

代わりに怒ってくれる人がいる。それだけで、孤独が癒えた気がする。


『お前の両親は面白いな。なあ、邪悪なものほど美しいじゃないのか。って、俺は思うんだよな』


悪魔は私の両親に軽く引きつつも、面白いことを言い出した。

つまり醜い私は邪悪ではない。と、励ましているのかもしれない。


「つまり、自分がとても美しいと?」


しかし、どうやら違ったようだ。


『当然だ!』


ジョンの呆れ混じりの問いかけに、当然のように返事をする悪魔。


「……人面瘡のくせに」


そして、お前が言うな。という、顔をするジョン。


『黙れ!』


怒り出す悪魔。

二人とも面白いと私は思った。そして、とても羨ましい。


「二人とも仲良しなのね」


「なんだと!?」


『ふざけるなよ!お前、目が腐ってるのか!どう見ても最悪だろ!』


怒るところも息がぴったりで本当に二人の仲の良さを感じてしまう。


「そういうところもそっくり。うふふ」


面白くて笑うと気がつけば本音がぽろりと出ていた。


「私ね。一人でも誰かとお話しできるジョンが羨ましいの。だって一人ぼっちだと寂しくて孤独なんですもの」


私の言葉に二人は何とも言えない表情で顔を見合わせは。


「……半分やろうか?」


『おい、やめろ!』


こんなにも幸せな日がずっと続けばいいのに……。


ずっと三人でいたい。


しかし、その願いは叶えられる事はなかった。

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