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3

それから、私はミラベルの目を盗んでジョンと会うようになった。

ジョンと一緒にいるのはとても居心地がいい。彼は私の聞かれたくない事を絶対に聞いてはこない。

それに、私の顔を見たいとは絶対に言っては来ない。


お互いに訳ありだから。それは当然ではあるのだけれど、それなのに、後ろ暗い事があるような気分になるのは何故だろう。

たぶん、自分の顔を彼に見せることができないからだ。


もしも、素顔を見せてしまえば私は彼に罵倒されるだろう。

そう思うだけで怖かった。

しかし、彼と会わないという選択肢はなかった。


いつものように、ミラベルの隙を見て草原に行くとジョンが待っていた。


「今日は遅かったな」


ジョンは苦笑い混じりだ。かなり待ってくれたようだ。

それにしても今日は風が強い。


「うん、ミラベルが出ていくのが少し遅くて、いつも思うんだけど、毎日ここにきてるの?」


私はフードが飛んで行かないように、手で押さえながら冗談めかして問いかけると、ジョンは曖昧な笑みを浮かべた。


「まあな」


「なぜ?」


「ここが好きだから、俺はお前が来なくなっても毎日来ると思う」


「そう」


ジョンがそう言いたくなる気持ちが少しだけわかる。


私は醜い自分を忘れたくて、けれど、一人になるのは不安だからここに来ている。彼もまた似たようなことを考えて来ているのだろう。

そっとしてほしい。だけど、一人にはなりたくない。

そんな複雑な気持ちに近い。

しかし、確実にわかっていることがある。


私たちはいつか二度と会わなくなる。そんな気がするのだ。


「お互い訳ありだからな、いつか会えなくなるだろうな」


その口ぶりからジョンは遠くない未来に、確実にこの地から離れるのがわかった。

寂しいと思う。しかし、彼を引き止める事は私にはできない。

今できるのは、彼との想い出を大切に心に刻むだけだ。

しかし、別れの日は早く知りたい。

心の準備のために。


「そうね。近いうちに遠くに行く予定があるの?」


「そんなところだ。たまに帰ってくるつもりだが」


私の質問にジョンは曖昧な返事をした。


「ねえ、村長さんの息子さんではないのね」


違うとわかっていたけれど、そうだったら良かったのに。


「そっちの方が良かったか?」


ジョンはクスリと悪戯っぽく笑う。


「そうね、わからない」


「そうか」


わからない。私はきっと一生この地にいるのだと思う。

もしも、ジョンがこの地にずっといるのなら、私の素顔をきっと見られてしまうだろう。

そうなったら。私は彼に嫌われてしまう。思い出は綺麗なままの方がずっといいから。


「……」


「それにしても今日は風が強いな」


何も言わない私に気遣ってなのか、ジョンは話を逸らした。


「そうね」


「気をつけろ。フードが捲れるぞ」


ジョンがそう言った瞬間、大きな風が吹き。

フードが揺らいだ。手で押さえようとしても遅かった。


「危ない」


慌てるジョンの声。明るくなる視界。私は怖くて彼の顔を見ることができなかった。


露わになった自分の顔に血の気が引いていくのがわかる。


「シビル、お前」


ジョンは驚いた顔で私の顔をわざわざ指さした。怒っている様子はないが、明らかに戸惑っている。

美醜で人を判断するようなタイプの人間ではないと思っていたが、どうやらそうらしい。


「私の顔見て驚いたでしょ?」


「……」


ジョンは何も言わなくて、その気まずさを誤魔化すように私は苦笑いする。


「私が醜いから」


「は?」


ジョンは、今度は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。

普段は表情の変化のない彼だが、今日は表情がコロコロと変わる。

こんな顔、絶対に見る事はないと思っていたのに。


「私、醜いから親から捨てられたの」


「え?」


ジョンは今度は不愉快そうに眉間に皺を寄せた。

私は不安で何でもいいから言い訳をしようと口を開く。


「私の事嫌いになった?ごめんなさい、隠していて、私、自分の顔を見られるのが怖くてずっと隠していたの。こんな顔だから誰とも会うなってミラベル。乳母なんだけどそう言われて、私は、醜いから、その、乳母のミラベルに誰とも会うなって言われて……」


もはや、何を言っているのか自分でもわからない。


「落ち着け」


ジョンは呆れたように私を見た。


「私の事、嫌いになったでしょ?」


「素顔を隠していた程度で嫌いになるか」


不安で出た言葉に、ジョンは何のことでもなさそうに言った。


「でも、私は醜いから」


「お前は醜くない。美醜の感覚が人と違うならわからないが、だけど、俺はお前を醜いとは思わない」


嘘だとわかっているけれど、ジョンのその言葉に少しだけ心が軽くなった気がした。

考えてみればお互いに訳ありなのだ。ジョンからしてみれば醜い私の見た目程度では動じないのかもしれない。


「本当に?」


不安で伺うような目を向けるが、彼は大丈夫だと言わんばかりに微笑む。


「もちろんだ」


「友達でいてくれる?」


「ずっと、友達だ」


また、不安な気持ちを吐き出すとジョンは私の背中を叩いた。


『こいつ気に入ったぞ』


「え?」


不意に聞こえた声に私は慌てて周囲を見回す。

他の人に顔を見られてしまったら……。

不安でジョンの腕を思わず握ってしまう。


「おい、やめろ」


「あ、ごめんなさい」


ジョンの不機嫌そうな声に私は慌てて手を離した。

突然、腕を触られたから嫌な気分になったのかもしれない。


「いや、違う。別に怒ってない」


ジョンは、怒った相手が私ではないと言った。

それなら誰に怒っているのだろう?


『お前は、コイツの秘密を知ったんだからお前の秘密も教えないと平等じゃないだろう?なぁ?』


そして、また聞こえて来た声に私は周囲を見回す。


「どこから聞こえる声?」


『俺の顔を出せ』


「くそっ」


ジョンは、悪態をつきながら胸元を露わにした。

そこには、刺青のような黒い影があり水のようにうねり一つの形になった。

それは、どう見ても……。


「……、じんめんそう?」

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