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裏切り

 「そろそろヴェルナール殿の考えた策を教えて貰ってもよろしいかな?」


 ヴェルナールの考えを汲み取ってか、アオスタ公は救世軍が二集団に分かれるまで聞かないでいた。

 ヴェルナールが軍議の場で策を明かさずにいたのは、諸侯の中に内通者のいる可能性を考慮したからだった。


 「そうですね。そろそろ言うべきでしょう」


 既にミッテルラントを出て二日、彼らはトリエステからそう遠くないベニスまで到達していた。


 「私とエレオノーラ殿の部隊とで敵軍後方に強襲上陸作戦を敢行します。既にエレオノーラ殿が舟を用意させているはずなので」

 「つまり、私が敵の気を引き付けておけば良いのだな?」


 アオスタ公は、ヴェルナールの言わんとしたことを代弁した。


 「そうして貰えると助かります。私とエレオノーラ殿の部隊の軍旗は、アオスタ公の部隊に預けておきます」


 側面からや俯瞰で見られれば、アオスタ公の部隊しかいないことは一目瞭然だ。

 だが正面から見られる分には旗の位置さえしっかりしていれば、アオスタ公の後ろに二つの部隊を置く陣立であると錯覚することもあるだろうとヴェルナールは考えていた。

 何しろ強襲上陸は奇襲攻撃であるから成功するのだ。

 悟られたら波打ち際で海の藻屑と消えることになる。

 

 「して、上陸地点はどの辺かな?」


 アオスタ公の質問を受けてエレオノーラがヴェルナールに意味ありげな目線を送る。

 

 「明日の昼にこの辺りに上陸する予定です」


 ヴェルナールはトリエステの詳細を記した地図をアオスタ公に見せ、いくつかある上陸予定地点のうち一番西側を指さした。


 「我が軍勢との合流も楽に出来そうですな」


 ヴェルナールはの回答にアオスタ公は満足気に頷いた。

 アオスタ公はヴェルナールが上陸地点を言ったことに内心ほくそ笑み、ヴェルナールとエレオノーラもまた、アオスタ公がヴェルナールの与えた情報を信じるアオスタ公に冷たい笑みを向けるのだった。

 

 「それでは明日の早朝からトリエステへの攻勢をお願いしますね?」

 「その役目、しかと承った」


 だが、にこやかに言葉を交わすヴェルナールにはアオスタ公に裏切りをさせるつもりなど毛頭無かった。


 ◆◇◆◇


 予定された幕営地に到着すると、ヴェルナールとエレオノーラは、アオスタ公と離れたところで話し合っていた。

 そこにノエルがやって来て跪いた。


 「やはりアオスタ公の元から、使者と思われる二人組が東へ走っていきました」


 やっぱりかぁ、とエレオノーラがため息をつく。


 「やれやれじゃのぉ……このままでは味方は実質千七百しかおらぬ」

 「まぁ、そう絶望的な状況でもないさ」

 

 ヴェルナールは既に考えを切り替えていた。

 

 「妾なら今のうちにアオスタ公を殺してしまうがのぉ……ヴェルナールならどうする?」

 「殺してしまうのは確かに楽だがな、それだとあの男を後々使えないのが難点だ。そらに最悪、あれの率いる兵が帰還すると言いかねない」


 アオスタ公は、二千を超える兵を率いて参加していた。

 この先に聳えるジュリア・アルプス山脈の防衛戦を突破する際に確実に必要となる兵力だった。

 

 「ならどうするのじゃ?もったいぶらず教えてたもれ」

 「エレオノーラ、アオスタ公の軍旗を用意出来るか?」

 

 エレオノーラは、およ?と首をかしげた。

 そして少しの間、考える素振りを見せると


 「今夜か!」

 「そう、今夜だ!」

 「急ぎ準備させよう!」


 ◆◇◆◇


――カロリング帝国港湾都市トリエステ――


 「総員、劇場まで走れぇっ!」


 ヴェルナールが大きく腕を振り下ろして叫ぶと、浜に乗り上げるように上陸した無数のキャラック船から一気に、兵達が夜の砂浜へと飛び降りていく――――。

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