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スクリーム・ノート III  作者: 藤沢凪
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百九頁    鳥 拾漆   『知りたい』

 百九頁

 

 鳥 拾漆

 

『知りたい』

 

「あなたの本当の父親は、ここに居る小鳥英治よ……」

 

 はっ? 何言ってるの? なんだよ? 何言ってんだよ⁉︎

 

「クソ親父が、真央の本当のお父さん? ……じゃあ私は? 私の本当のお父さんは⁉︎」

 

「いや、あなたの両親は紛れもなくここに居るお母さんとお父さんだから」

 

 そうなのか? ……いや、分からないよ。

 

「本気で言ってんのかよ? 冗談じゃ済まされないよ? 真央の本当の父親って事は、私と真央は姉妹って事になるのか?」

 

「姉妹……腹違いの、姉妹だよ……」

 

「なにそれ? 腹違い? 真央の母親は?」

 

「涼子。鷹狩涼子っていう、私の、友達だった女の子……」

 

「はぁぁぁあッ⁉︎ ま、真央……?」

 

 私は、話しに頭が追い付かなくて、真央に視線を移した。真央は、表情も変えず真顔のまま、私のお母さんと父を見つめていた。私だけ、置いてけぼりを食らっているみたいだ。リビングの奥に置いてある姿見に私と真央が映っていた。確かに……髪型が違うだけで、まるで同じ顔の造りをしている人間に見えた。

 

 真央が、落ち着いた声で言った。

 

「私のお父さん、アルコール中毒で、もう、どうしようも無いんです。あの人の血を引いて無くて、良かった」

 

「そうか……大変だったんだな?」

 

「大変だったんだな? そんな事、あなたに言われる筋合いなんか無いんですけど⁉︎」

 

 真央の怒り、なのかな? 母はそれを抑え様としてなのか? 話しを始めた。

 

「真央ちゃん! これは、私と英治の罪なの。あなたには……優子にも、その経緯を話さなければいけない。十六年前、優子と真央ちゃんが産まれた時の話しをするね……」

 

 一体、何がどうなって、こんな事態になっているの?

 

「英治と、私と涼子は大学の同級生だった。そして、英治に二股を掛けられていたの」

 

「はっ? その時に身籠ったって事?」

 

「違う。卒業をして、それぞれ就職先に勤め始めていた。私は、英治が二股をしている事に気付いていた。でも、その当時私は、どうしても英治の事が好きで、離したく無かった。だから、夜の時、そういう要求をした」

 

「そういう要求?」

 

 って、なんなの?

 

「……ゴムを、付けないでって言ったの」

 

 はっ?

 

「それって……子供が出来たってなれば、自分のものになると思ったんだ?」

 

 少しだけ居心地の悪い沈黙が流れた。そして、母は言った。

 

「そうだよ」

 

「私、そんな女同士の諍いの為にこの世に産まれたんだね?」

 

「……でも、あなたを産んだ事を、一度だって後悔した事なんか無い!」

 

「ごめん……そういうつもりで言ったんじゃ無いんだよ。ただ、頭の整理が付かなかったんだ」

 

 私の命が出来た経緯を知り、私は、酷く動揺した。でも、私は母の事が、大好きだ。経緯なんて関係無いんだ。本来、こんな事掘り返されなくて済む事の筈なんだから。

 

「私は、多分……私を産んだ事を多分。母は、後悔しているんでしょうね」

 

 あっ……違う。真央ごめん。私、そういうつもりで言ったんじゃ無いのに。

 

「真央? 私、訳分かんなくなっちゃってさ? ち、違うんだよ……」

 

「なにが?」

 

「真央の、母親の話し……」

 

「気を遣われてるのが余計に辛いんだよ。分かってるつもりだから。母も、お姉さんと同じ様な理由で私を身籠ったんですよね?」

 

 母に真央が聞いた。

 

「分からない……彼女の気持ちまでは、分からないよ。でも、同じ頃に妊娠をして、どっちを選ぶのかを英治に問い詰めた」

 

「それで選ばれたのが、お姉さんだったんですね?」

 

「そう、だね……」

 

「その時に、自分はどれだけ不倫しても良い様にお母さんと契約を交わしたんだ?」

 

 この異常な環境は、結婚する前から決められていた事だったんだ。父を睨み付け、問うてみた。

 

「ごめん優子。その当時、私はお父さんが生き甲斐だったの……英治と結ばれるのなら、その他の者を地獄に堕としたって構わないって思ってた。だから、私を選んでくれたら、少しくらいの火遊びは許してあげるって、約束を交わしたの」

 

 お母さんが答えんのかよ? クソ親父? お前はだんまりかよ⁉︎ マジ、救えねぇんだよ⁉︎

 

「だから真央を、涼子さんを地獄に堕としたの……? 謝る相手、間違ってるんじゃないの⁉︎」

 

「間違ってたよ……私、どうしても……言う権利が無いんだとしても! でも、どうしても! 真央ちゃんの事……守ってあげたい‼︎ お母さんが居なくなってお父さんと二人きりだって聞いて、お父さんがアルコール中毒で話しが通じないって聞いた時に思った! この子は、私が守ってあげなくちゃ。私達しか、守ってあげれる人は居ないから……」

 

「私を、守る……? 私、もう無理なのに。人生詰んでるんだよ。それでも、そんな事言ってくれるの?」

 

 母が、真央の瞳をしっかりと見つめて言った。

 

「守るから‼︎ あなたに、誰かから大切に思われている時の、暖かさを知って欲しい。それはね? 家族だったら、当然ある事なんだよ? 暖かくて、心強くなれるものなの。あなたにも、それを知って欲しい」

 

「でもお姉さん……あなたとは血が繋がってない。家族には、なれない……」

 

 真央? そんな悲しい事、言うなよ。

 

「……本当の家族にはなれなくても、大切に思う事は出来るから!」

 

 父が鷹狩涼子さんを選んでいたのなら、未来は大きく変わっていたのだろう。だとしても、子供を捨てて自分の人生を謳歌する母親の気持ちなど、私には分かる筈など無かった。

 

「私……お母さんの事を知りたいんです。今まで、名前くらいしか手掛かりも無かったけど、お二人は、大学の同級生だったんですよね? 連絡先とかを……知ってたり、しますか?」

 

 真央? ……私は、やめた方が良いと思う。

 

「彼女の携帯番号が替わっていなければ……でも……」

 

「連絡は、取りづらいですか?」

 

「そう、だね……」

 

「そうですか……不幸になった私の為くらいじゃ、そこまでやってくれないですよね」

 

 そんな言い方するなよ。真央が必死に母親へ続く手綱を引こうとしているのが見ていて分かる。良いのか? その先は、お前が傷付く未来に繋がってるんだよ?

 

「違う! あなたが心配なの……だって……分からないから。涼子の想いを、私は分かる筈なんて無いから……」

 

 母も、私と同じ気持ちだった。きっと、真央を思って連絡するのを渋ったんだ。

 

「お姉さん? 私ただ、知りたいだけなの。私の母親がどんな人なのか。今、何をしているのか。私の事を……どう思っているのか……」

 

「真央、やめとけよ……そんなの……自分が傷付つくだけだぞ?」

 

 私は、その方が良いと思ったから言った。でも真央は、私を睨み付けて言い返して来た。

 

「優子には分かんない! 絶対、優子には分からないよ……私ずっと、ずっとお母さんの存在を求めて来たの。知らないから、何も知らないから‼︎ だから、未来の自分の姿も浮かば無いの。もしも恋をして、結婚して、子供を産んだとしても、どうすれば良いのか分からないの。だから、未来に希望が持てないの」

 

 本来なら、その役割を残された父親がするべきだったんだと思う。でも、真央には無いんだ。父親に、母親に優しくされた事が無いんだ。

 

「母親に会っても、希望を貰えるとは思えないんだよ」

 

 私は、そう思ってしまう。真央は、何を求めているの?

 

「そうかもしれない。でも、本当に、ほんの少しでも良いの……私の事が心の片隅にでも居た。それだけで良いの。傷付けられてもいい。その中に一欠片でも、私への愛があれば、私、今よりも前向きに生きて行けると思うんだ」

 

 そっか…………何も分からない私が、意見なんて言ってごめんね。

 

「お母さん……? クソ親父でも良い。真央のお母さん、涼子さんに連絡してよ」

 

「優子……ありがとう」

 

 そんなんじゃ無い。だって、辛いのはお前だろ⁉︎

 

「俺は、その……」

 

 クソ親父、物怖じてやがる。

 

「分かった、私が連絡する。真央ちゃんの覚悟を、無碍にする事なんて出来ない‼︎」

 

「お姉さん……ありがとう」

 

 母がスマホを持ち、指で操作をしていった。私達は暫く、その様子を静観していた。

 

「当時ラインなんて無かったから、涼子の手掛かりは電話番号とメールアドレスしか無い。メルアドより替わって無い可能性の高い電話番号の方で、ショートメール送ってみた」

 

 その当時ライン無かったんだ? ライン出来たのっていつからなの? それまでどうやって連絡取り合ってたの? まぁ、別にどうでもいいか。

 

「なんて送ったの?」

 

 そっちの方が気になる。

 

「久しぶり……私の事、分かるかな? って送ったよ」

 

 母はその画面を私と真央に見せて来た。嘘を吐いてるって、思われたく無かったんだろうな。

 

「ありがとう。お姉さん……」

 

「真央ちゃん? これからありがとう禁止。ありがとうって言葉はね? 溢れ出る物なんだよ! だから容易に使ったらダメ。次に真央からありがとうって言葉が出た時は、堪え切れなくて溢れ出た物だって解釈するからね?」

 

 そうなんだ? じゃあ、あんまりありがとうって言わない様にしよ。

 

「あっ……うん。分かりました!」

 

 真央も分かってくれたみたいだ。

 

「考えててもしょうがないよ! ご飯、食べよ?」

 

 みんなで食事を再開した。冷めてしまってても、なんかの魚の煮付けと白米はとても美味しかった。

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