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スクリーム・ノート III  作者: 藤沢凪
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百六頁    悪魔 伍   『だって』

 百六頁

 

 悪魔 伍

 

『だって』

 

 優子の家に泊まった翌日、晶の家に泊めてもらった。さやかも一緒に来て、三人で他愛も無い話しをしながら夜を過ごした。その翌日はさやかの家、晶も一緒に泊まった。晶とさやかは、よくお互いの家でお泊まりするんだと言っていた。そこに一人増えたくらいで家族は何も言わない。だから、気兼ねなく泊まりに来てと言っていた。

 

 そして、家に帰らなくなって四日目。今日は優子の家に泊まる事になった。学校帰り、流石に着替えが無くなってしまい、一度家に帰る事になった。

 

「真央? これからは私の家で洗濯すれば良いよ。お母さんはいつでも、毎日でも泊まらせなさいとか言ってるから、気を使う必要なんて無いからな?」

 

「ありがとう」

 

 私の家のアパートまで着いて、三階まで階段を上っていると、とてつもなく暗くて、深い闇の中に進む様な不安感が押し寄せて来た。

 

 きっと、今の様な、優子や晶やさやかの家を行き来する生活をずっと続けていく事なんて出来ない。もしも、その居場所を無くしてしまえば、私は一人でこの階段を上り、あの部屋のドアを開かなければいけないんだ。

 

 幸せは、当たり前じゃ無い。分かってる。分かってるけど……

 

 もう一人で、この階段を上る事なんか、出来そうに無いんだよ。

 

「部屋の中まで、入ってくれる……?」

 

「そのつもりだったよ」

 

 私の声は、震えてしまっていた。気付かれてたのかな? 分からない。でも、優子は優しく微笑んで応えてくれた。

 

 部屋の中に入り、私の荷物が収納された押し入れのあるリビングまで行くと、珍しく、父がその場に丸まって寝ていた。いつもは、玄関かキッチンの方で寝ているのに。

 

 私と優子は音をあまり立てない様に歩き、押し入れの中から、着替えを全て出してバッグに詰めた。全てと言っても、あまり服を持ってなどいないので、その作業は一分も掛からなかった。

 

「行こう」

 

「うん」

 

 優子と部屋から出て行こうとして、寝ている父を通り過ぎた。


「何処へ、行くんだ?」

 

 その瞬間、背筋が凍りついた。父が、私に声を掛けて来た。

 

「……友達の家に、遊びに行くの」

 

 父の顔は見れないまま、そう返事をした。

 

「泊まるのか?」

 

「……うん」

 

 恐る恐る、父の方を向いた。父は、丸まったままだった。多分、眠ってなどいなかったんだ。そのままの姿勢で、会話は続いた。

 

「昨日も、一昨日も、その前の日も帰らなかったな」

 

「うん。そうだね」

 

「今日も、明日も、帰って来ないのか?」

 

「……多分」

 

「もう、帰って来ないのか?」

 

「…………」

 

 私は、口籠もってしまった。父がその姿勢のまま会話するのは、怖いからなんだ。娘の私と面と向かうのが怖くて、連れて来た友達に非難されるのが怖くて、だから、目を合わせられないまま会話をしている。

 

 でも、なんで? 怖いのなら、黙って見送れば良かった筈でしょ?

 

「何処にも、行くなよ……」

 

「えっ?」

 

 …………

 

「俺を……一人にしないでくれよ……」

 

 涙が溢れて来た。だって……

 

 だって、だってだってだってだって⁉︎ ……一人にしたのは、そっちの方じゃん。まだ、働く事も出来ない。生きる術を知らない。愛を知らない私を独りきりにしたのは、あなたじゃない⁉︎ 自業自得だと、思うんだけど⁉︎

 

 それでも、言葉に出来なかった。そんな悲しい、悔しい想いと。初めて父に必要とされた嬉しさで、私は嗚咽を堪え切れず泣き叫んでしまった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「い、行かないで? お願いします。い、行かないで……」

 

 暫くは、そんな私達親子を静観していた優子が、私の肩にそっと手を置き呟いた。

 

「落ち着いたら、行くぞ?」

 

 私は、言葉が出せなかったから、震えている身体を無理矢理動かして、首を縦に振った。

 

「ま、真央? 傍に、居てくれるよなぁ……?」

 

 父の声は、震えていた。

 

「じゃあなんで、幼い真央をこの部屋に一人きりにして遊びまわってたんですか?」

 

 優子が、父に問うた。

 

「ま、真央ぉぉお……」

 

「じゃあ何で! お前の存在が邪魔だって言ったんですか⁉︎ 存在を消して過ごせって言ったんですか⁉︎」

 

「ま、真央しか、お、俺にはもう真央しか……」

 

「じゃあ何で‼︎ 死ねって言ったんですか⁉︎ 自殺しろって言ったんですか⁉︎ その頃の真央には、あなたしか頼れる人が居なかったんじゃ無いんですか⁉︎」

 

「……ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 父は、丸まりながら震え、泣いていた。

 

「……せめて、目を見て言ってよ……そんなの、格好悪いよ。お父さん……」

 

「真央、もう行こう」

 

「うん」

 

 私達は、玄関まで歩き、ドアを開けて外へ出た。

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