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スクリーム・ノート III  作者: 藤沢凪
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百四十九頁    犬 弍拾弍   『友達で居させて』

 百四十九頁

 

 犬 弍拾弍

 

『友達で居させて』

 

「また君はそうやって……僕の存在を忘れていたのかい?」

 

「忘れる訳無いじゃん? こっからが本当の勝負だ」

 

 猫宮を陥れようとすると、必ずコイツが現れる。なんか、もうどうでもいいんだよ。掛かって来いよパオン太オラァ‼︎

 

「本当、性格クズだな君。どうせこれで白状するのに」

 

 どうとでも言えよ‼︎ あたしは、お前が仕掛けて来る事も織り込み済みなんだよ‼︎

 

「うっ…………」

 

 アァッ‼︎ アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ‼︎

 

 パオン太からの耳鳴りの攻撃……あたし、体験してたから思ったんだ。もしかしたら、耐えれるんじゃないかって! それで家族を助けられるのなら、あたしは耐えきってみせる! ……良かった。精神保てた! あたし、声、出さなかった‼︎

 

「はっ? やるじゃん? 少しだけ見直したよ君の事。まぁ、ほんの少しだけなんだけどね? 次は、もっとボリュームを上げてあげるよ」

 

 はっ? まだ上があんのかよ⁉︎ パオン太からのパワーアップした第二陣が襲い掛かって来る。

 

「オエッ……」

 

 ヴォウオリェェアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ‼︎

 

 声は、出さなかった。ちょっとえづいたけど……

 

「マジかよ? ギアセカンドまで……そろそろ諦めた方が良いよ? これ以上やると、命に関わるよ?」

 

「あたしが死ねば、あんたは自由になれるんでしょ? 殺せよ。殺してみろよ⁉︎ 勝負じゃパオン太ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ⁉︎」

 

「イカれてる……我が身可愛さじゃ無いって事かい?」

 

「あたしは‼︎ あたしは……家族を守るんだ‼︎」

 

 なんとなく仕様は分かっている。この声は今はパオン太にしか届いていない。

 

「へぇー……やるじゃん? 犬養琴子。本当は、とてもとてもしんどかった筈だろ?」

 

「マジ、ゲロ吐く寸前だったよ。でも、パオン太の攻撃さえ耐えられれば、家族を守れるって思ったから」

 

「ふーん? まだこの攻撃を続ける事は出来るけど、僕は、違う可能性に賭けてみたくなった」

 

「違う可能性?」

 

「君の、家族への愛は本物だ。どっちみち、このままだと君達の家族は破滅する」

 

「何、言ってるの?」

 

「僕を攻略する事に全神経を費やしていたのだろ? 視野を広く持て。君は今、何をすべきか、何を考えるべきか、冷静になって考えてみるんだ」

 

「アッ、ハハッ‼︎ あたしに攻撃が効かなくなったから、他の策考えてやがるな⁉︎ あ、あたし、あたし‼︎ パオン太? てめぇの話しなんか聞いてやんねぇ。お前も、いつか祓って地獄に堕としてやっかんな? 覚悟しとけよ‼︎」

 

「怖っ……そりゃ誰からも好かれない訳だ。その、両親へ向ける優しさを、友達にも同じ様にしてあげれれば、君はクラスでも人気者になれる筈なのにな……」

 

「はっ? パオン太? どういう事だよ?」

 

「こちらにばかり意識を割かせた僕も間違っていたよ。後は、今の状況をちゃんと把握して、冷静になって考えるんだ。分かったかい? 僕の事は、一旦忘れるんだ」

 

「何言ってるの? パオン太? ……どういう事か説明しろよ⁉︎」

 

「自分で気付かないと意味の無い事なのさ。またね? 琴子」

 

「パオン太?」

 

 …………

 

 居なくなった? まぁ……よし、よし! よしよしよし‼︎ 一番高かったハードル越えた。後は、全部猫宮のせいにすれば良い‼︎

 

「色んな食い違いがあって手間を取らせましたが、本当に、つまらない物ですが、お受け取り下さい」

 

 カズ兄が改めて、手土産を母に渡した。

 

「……はい。……猫ちゃん? 猫ちゃんが、火事を起こしたの?」

 

 母が、猫宮に問い掛けた。

 

「うん。猫が火を点けたの。ごめんなさい……」

 

 なんなの? 内蔵が、それぞれの位置を保てて無い。多分いま、大腸が喉元まで来てる。口から○○○出そう。それくらい、居心地が悪くてしょうがない。身体中から悲鳴が聞こえて来る。脂汗が、全身に纏わりついて来る。

 

「そっか……琴子?」

 

 母があたしの名前を呼んだ。

 

「はい?」

 

 あたしは、恐る恐る母の目を見つめた。

 

「……本当に、それで良いの?」

 

 あっ………………………………

 

 お母さん。全部分かってるんだ。あたしのせいだって事、分かってるんだ。

 

 でも、あたしは⁉︎ 家族を守る為……それで良いの? ってなんだよ? あたしが……あたしがどんだけ苦しんで手に入れた平穏か分かって言ってんのか⁉︎ 

 

 ……だから、そんな目で見ないでよ。なんで? なんで分かるの? あたしが嘘吐いてる事、なんで分かるの?

 

「…………」

 

 琴子の、お母さんだからだよ?

 

 ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ‼︎

 

 なんで? なんでなんでなんで⁉︎

 

 分かってるなら、黙っててよ? あたしが、上手い事言って猫宮を主犯に仕立て上げたんだから。話し、合わせてよ?

 

 なんでダメなの? あたし達が救われる為には、そうするしか無かったんだよ? 綺麗事じゃ済まされ無いんだよ⁉︎

 

 その時、母が、猫宮を涙を溜めた瞳で見つめた。瞬きをした瞬間、その瞼から幾つかの雫が床に零れ落ちた。

 

 

 二度と私に友達という言葉を使わないで

 

 

 リフレインしていた言葉が、鋭い矛となってこの心臓を何度も突き刺して来る。

 

 あたし、傷付けたんだ。猫宮イチカを、こんな大きな矛で刺したんだ。自分に返って来て初めて気付いた。こんな刃で傷付けられたら、痛いよ。痛かったんだろ? 猫宮?

 

「わんちゃん? どうしたか?」

 

 顔を上げた猫宮が、一番最初に見たのは家族ではなく、あたしだった。そして、こんなあたしを気遣ってくれてる。猫宮、あたし……

 

 各々が、それとなく立ち上がって行く。この話し合いも、猫宮が罪を被ってお終い。

 

「それでは、わたくし達は失礼致します」

 

 カズ兄がそう言って背中を向けた。猫宮家が、ゆっくりと玄関へ歩を進める。

 

 ……あたし。あたし……良いの? これで、本当に良いの?

 

 猫宮イチカ。馬鹿で、不潔で、気持ち悪くて、最近ではあたしより人望を掴み掛けている、気に入らない女。嫌い。嫌い嫌い。全部、お前のせいにしてやんだよ‼︎

 

 

 二度と私に友達という言葉を使わないで

 

 

 ……そんな事、言うなよ。……色んな事、あったじゃん? それをあたし達、共有して来たじゃん? もう、あたし達、友達じゃ無いの? ってか友達だったの⁉︎ ……友達だったよ。猫宮は、あたしの友達だったんだ。今、このままあたしが何もしなければ、多分、一生猫宮と友達に戻れる事は無い。友達に間違った事をしたのなら、言うべき言葉は決まっている。猫宮? ……ごめんなさい。

 

 それを、態度で示さないと、猫宮に納得なんてしてもらえない‼︎

 

「待って下さい‼︎」

 

 猫宮家の面々が振り返り、あたしを見つめた。

 

「あ……あの…………」

 

 怖い。怖いよ……猫宮お前、こんな状況でよくあんな事言えたな? あたしは友達に、しかも冤罪なのに、そんな事をさせていたんだ。

 

 右の肩に、優しく手を置かれた。振り向くと、母が涙を流しながらあたしに笑顔を見せてくれた。

 

「琴子? 頑張れ!」

 

 あたしは視線を猫宮家に戻し、話しを始めた。

 

「聞いて下さい。猫宮イチカさんの部屋に火を点けたのは、あたしです」

 

 本当に弱いなあたしは。母から背中を押してもらわないと、勇気が出なかった。猫宮、お前は誰からの支えも無いのに、強い奴だったんだなお前。

 

「えっ? でもさっき……」

 

 あたしは、床に額を付け、大声で懺悔した。

 

「ずいまぜんでしだァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ‼︎ あだしが、火を点けまじだ‼︎」

 

 ヤベェ……上手く喋れない。

 

「どういう事ですか?」

 

 それでも、ちゃんと伝えるんだ‼︎

 

「あだじが火を点けたんです。ねごみやにイキろうとして、煙草吸おうとしだんです。ぞじだら、その煙草が猫宮の大事にじでだヌイグルミに引火じて、火事を起ごしでじまっだんです……猫宮は何も悪くないがら、だがら‼︎ あだしを責めて下さい……ずいまぜんでしだァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ‼︎」

 

「イチカを庇ってくださってるんですよね? もう良いんですよ? あの子はそういう奴ですから」

 

 猫宮テメェ⁉︎ 家族からどんだけ信用ねぇんだよ⁉︎ あたしは頭だけ上げて、カズ兄に弁解した。

 

「ぢがう‼︎ うぅ……うぅぅぅぅぅ……猫宮に……イチカに、自分のせいだと言う様に圧を掛けました。あだじの最低な提案に乗ってぐれだんですイチカは‼︎ ごべんなざい……」

 

「イチカ? そうなのか?」

 

 カズ兄が猫宮に問い掛けた。

 

「…………」

 

 何も、話さない。

 

「ずいまぜんでしたァ……あだじ、どんな罰でも受け入れます。でも、あだじだけにしでくれないでじょうかァ⁉︎ 罰を背負うのは、あだしだけにしてくれないでしょうか?」

 

「へっ? 何の事を言っているんだい?」

 

「あだしが! これから一生かけて慰謝料払います。すぐにバイトして、稼ぎは全て振り込みます。だがら‼︎ お父さんとお母さんには、何もしないで下さい。お願いします……」

 

「本当に君は、イチカを庇っている訳じゃ無いんだね?」

 

「はい……あだしを、あだじをねごみやは庇ってくれだのに、あだじは‼︎ あだじ……ざいでいだよ……」

 

「そうか……イチカがしでかした事じゃ無くて良かったまである。もう良いよ? 罪の意識を抱え込んでいた様だね? ウチはリフォームしようと元々思っていたんだから、大して痛手なんて無いから安心して? だよね父さん?」

 

「うん。そうじゃな」

 

 ヒィッ⁉︎ 霊が喋ったし‼︎ じゃなくて。死んだお爺さんの霊だと思ってた人はお父さんだったのか。

 

「でも、あたしへの罰は……」

 

「へっ? そんなの無いよ? っていうより、イチカは一癖も二癖もあるだろ? いつも、仲良くしてくれてありがとうね?」

 

 ハァッ⁉︎ 罰ねぇのかよ⁉︎ ……それじゃあ、最初から正直に話した方が良かったじゃん⁉︎ でも、本当に良かった。

 

「ありがとう、こざいます……」

 

 心からの感謝を、もう一度額を床に付けて、土下座して表した。

 

「でも君は、何故カミングアウトなんかしたの? そのままにしておけば、イチカの罪になった。君はそれを望んでいたんだろ?」

 

 頭を上げて、問いに答えた。

 

「あたし、おかしくなってたんです。自分を見失ってた。猫宮に、二度と私に友達という言葉を使わないでって、言われたんです。……なぁ猫宮? そんな悲しい事言うなよ? なぁ猫宮? ……ごめんなさい。あたしが悪かった。全部、あたしが悪かった。だから、お前の友達で居させてくれよ……」

 

「わんちゃん……」

 

 ずっと沈黙を守っていた猫宮が、喋り始めた。

 

「うぅ……」

 

 ここまで言えば、流石に許してくれるだろ? じゃなかったら鬼なんだけどマジで。

 

「正直、わんちゃんがここまで身を呈すると思ってなかったんだよ。一瞬マジで苛ついたけど、わんちゃんらしくて良いなと思った程なんだよ。ってか、気持ち悪いんだよ。正気か? 土下座までして謝って……わんちゃんらしく無いんだよ。猫は、わんちゃんはもっと誰からも愛想尽かされる程最低であって欲しかったんだよ⁉︎ 何を情にほだされているか⁉︎ 自分を貫き通せよ! 猫は、改心などせぬ、モンスターわんちゃんが大好物なんだよ‼︎」

 

「はっ? テメェェェェェェェェェェェっ⁉︎ こっちゃガチ泣きして凹んだんだぞ⁉︎ ふざけた事言ってんじゃねぇよ‼︎」

 

「フフフッ、やっぱわんちゃんはその位イキってる方が猫は好きなんだよ。……でも、らしくないわんちゃんの言葉、猫、嬉しかったんだよ?」

 

「チッ、改心し損だわ。マリオパーティーでボッコボコにしてやんよ」

 

「はっ⁉︎ 猫とマリオパーティーをやる時は、忖度してくれる約束は何処へ行ったか⁉︎」

 

「知らね! さっ、やるぞ猫宮!」

 

「糞が! 今日こそ猫が覚醒して無双してやるんだよ!」

 

「はい無理無理ィィィィ! 掛かって来いよ‼︎」

 

「今日こそ絶対勝ってやる。猫のゲームだぞ⁉︎」

 

 二人で煽り合っていると、いつの間にか猫宮家の面々は帰っていた。そして、父と母が笑顔でゲームに参加して来た。わだかりなど何も無いパーティーが、いま始まる。

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