百四十七頁 死神 弐 『野望』
百四十七頁
死神 弐
『野望』
この仕事を始めて一年が経つ。我は現世で営業マンだった様な気がして、その事も幸いして、違法な力を使ったヌイグルミの検挙率のトップを争う地位に居た。
死神界のトップに立つ事に成功した。なのに、ミクニは相変わらず自分に自信が持てないままでいる。我がトップなのに……それだけじゃ、彼女の心の穴は埋められないというのか?
今日もまた、スタンドレーダーが鳴る。携帯に情報が送られ、ピックアップされた場所までドライブアシスト、略してDA、現世でいう原チャリで向かった。
現場に着くと、魂を持ったヌイグルミが一体燃えていた。ご愁傷様。しかし、どんな特殊能力を使ったというのか? 死神の力を使い、その現場で特殊能力が使われた場面を再生した。
……うん。この猫宮と呼ばれている女の子の部屋で、わんちゃんという子がタバコを吸い始めたんだな。それで火事になったのか? 違うか? だとしたら、何故スタンドレーダーが反応したのかって話しになる。
……んっ? あっ‼︎ ここだ‼︎ ここでこの雀? かなんかのヌイグルミが、特殊能力を使ったんだ! ……象のヌイグルミ、パオン太って名前なのかな? 何も知らずに召されるのは、可哀想だね。持ち主のイチカって子は、マジで凹んでるっぽいし。
その場面の動画を、音量を上げて聞いてみた。
「はぁ……まぁ良いわ。ちょっと一服させてもらうから?」
事の起因はここだ。
「んっ? 一服? どゆこと?」
「煙草吸わせてもらうわ? 親には言うなよ?」
「煙草……? わんちゃん?」
「あぁー、あたし、煙草吸うんだよね? ヤニ切れてんだよ。吸わせてもらうから!」
このちょい後に反応出てるんだよなぁ。雀が何か呟いてたりしないか?
…………
無言。無言で何かの罪を犯している。ヌイグルミなので、焦りが表情に出る訳も無い。しかし我は、否応無しに滲み出して来る悪意を、その雀から感じていた。
「わんちゃん右‼︎」
「ひ、ひ、火ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイッ⁉︎」
パオン太に火が点いた。動画を少し巻き戻し、再生ボタンを押した。
……これだ。わんちゃんと呼ばれている子がイキって、同時にタバコを二本吸い始め、一本目の火を消そうとしたけどなかなか消えず、わちゃわちゃした中に紛れて犯行は行われていた。わんちゃんの咥えていたもう一本のタバコが、不自然に移動して、パオン太の足に乗っかったのだ。そして、パオン太は燃えて黒炭となった。
推測ではあるのだが、この雀には、物体を動かす事の出来る特殊能力があるのではないか? その力を使って、わんちゃんの咥えていたタバコを動かし、パオン太を殺そうとしたのではないか?
何故、そんな事をした? ……理解が出来ない。このヌイグルミ達の間に、何があったというんだ?
……まぁ、事の経緯などどうでも良いか? 多分この雀が主犯だから、コイツの首を取れば良いのだろう。
「アアァァァァァァァッ‼︎ チュン太? パオン太が、パオン太がァッ⁉︎」
ハッ! もう一体居たのか⁉︎ 狐の姿をしたヌイグルミがチュン太に話し掛けた。
「パオン太、今までありがとうね」
どの口が言っている? チュン太というのか? コイツは、パオン太を燃やしたんだぞ?
「死んでしまったの⁉︎ パオン太、パオン太ァ……」
狐のヌイグルミが悲しんでいる。あれっ? コイツがやった可能性もあるか? ちょっと動画じゃ分かり辛かったんだよなぁ。
「天誅だったんだよ。コン太? 切り替えて行こう」
やっぱヤったのチュン太だわ。すぐ切り替え様とするし。あと、狐のヌイグルミはコン太って名前な訳だね?
「チュン太は……十年以上も一緒に過ごしたパオン太が死んで、そんなすぐに気持ちを切り替えられる様な薄情な女なんだね⁉︎」
あっ、喧嘩し始めた。
「なんでそうなるの? 仲間を失った悲しみは、コン太と同じだよ⁉︎」
よく言うよ。
「オイラは……オイラは……」
その時、猫宮母のおかげで火事がおさまって、わんちゃんの家に猫宮が泊まる事になった。
……まだはっきりとしないな。チュン太とコン太、どっちが力を使った? 反応は確実に出ている。早く処して次に行きたいのだけど……確証を得るまでは、コイツらに張り付く事になるな。罪を犯していないヌイグルミを殺すと、後々厄介事になりかねない。
暫くこの二人、二匹と言った方が正しいのか? を観察していた。でも、その特殊能力を使う素振りなど無かった。
まぁ、今回は見逃してやるか。主犯分からないし。ここに居ても我の営業成績は上がらない。
その時、脳に直接語り掛けて来るかのような囁きが聞こえて来た。
「寝かせないよ」
ヒィィィィィィッ⁉︎ 何⁉︎ 我、ホラー系苦手なんだけど?
「イチカは、僕が守るから」
怖っ、怖いよ……
「嫌ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ‼︎」
わんちゃんが叫んだ。あれ? 周りには聞こえていないみたいだ。その後の会話の流れを聞いて、何時間か前に黒炭にされてたパオン太が霊として蘇り、わんちゃんに取り憑いたのだと推測した。
霊かぁ、怖っ。初めて遭遇したし。って、我死神か! そっちの方がもっと怖いわ。
我、霊には手出しする力無いしなぁ。最近霊減ってたけど、こんな形で出会すとは思って無かったよ。ってか、取り憑いた相手とこんな喋ったり出来るんだ? ……凄いな。あれ? 霊の方が自由度高くない? 死神とか言っても、ヌイグルミ殺す事しか出来ないし。ミクニに、この世界を総べてやるなんて啖呵切ったけど、今我はウーバーの配達員の様に案件をこなしているだけだ。下請けも下請け、一発逆転の、駒が欲しい。
少し前に、ラルクアンシエルの一人が、霊に呪い殺された話しを聞いた。我にそんな力は無いが、もしかするとコイツは……? 懐柔すれば、我の野望を手助けする駒となるのかもしれない。
もう少し、この一家の動向を見守ろう。
「あつ、アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ‼︎ ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい⁉︎ あ、あたしが全部悪いんでしたァァァァァァァァァァァァァァァッ‼︎ …………あっ、だからもうやめて? もう……その音消してよォォォォォォォォッ‼︎ ねぇェェェッ‼︎ あたま‼︎ 頭おかしくなる……音、消して? お願い。パオン太……」
やってやがる……取り憑いた相手と会話をし、攻撃まで出来るのか⁉︎ コイツは間違いなく化ける。この世をぶっ壊す程の潜在能力を秘めている‼︎
ククッ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ‼︎
パオン太お前を、我とミクニの野望の為に使わせて貰うぞ。




